アトリエに残された桜 (ページ30)

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バッティングセンターに着き、それぞれにボックスへ入って打ち始めた。そこで気づく。

これってどっちも喋らなくなるんじゃない？

どちらも黙ったまま打ち続けて終わるのか？え、バッティングセンターってそんな所じゃないよな？お互いに打ってるところを見合って笑ったり歓声上げたりするような所だと思ってたんだけど…。

ひとつのボックスでやれば良かった！！

何故か2人ともそれぞれのボックスで黙ってて打ち続けるという何とも不思議な雰囲気に俺の脳内は混乱してさらに打ち続けることしか出来なくなってしまった。

もうほぼ無我夢中という感じで打ち、大体1ゲームの半分くらいを打ったところで翔くん様子を見ようと自分の立っている打席から後ろにいるであろう翔くんを振り返ると、ボックス内がもぬけの殻になっていた。

『！？』

驚いて周りを見回すと、すぐ後ろのボックス外にペットボトルのお茶をのんびりと飲む翔くんの姿があった。

い、いつの間に…。

どうしたのかと翔くんの元へ行きたいのだが、まだ1ゲーム分が終わっていないし、途中でキャンセルするというのも折角払ったお金が勿体ない気がする…。そしてそんな間にも投手のピッチングマシンはお構いなしに投げてくるのでキャンセルしようか、打ち終えてしまおうかと戸惑っている間に1ゲーム分、全てを打ち切ってしまった。

ボックスを出て、尚ものんびりと座っている翔くんの元へ駆け寄る。何と言ったら良いのか、自分が何を訊きたいのか、全く考えることなく無鉄砲に行ってしまって立ち止まってしまった。

『……』

「お疲れ様～」

ﾊｯと翔くんに言われて我に返った俺はﾎﾟｯと出た言葉を慌てて出した。

『…翔くん！最後まで打った！？』

「え？打ってないよ？」

当たり前のように言われて拍子抜けする。開いた口が塞がらないとはこういう事かと思うほどあまりにも典型的な反応に自分で自分に呆れてしまう。

翔くんの言葉が理解出来ず、『え？ん？』くらいしか言えない俺に対して翔くんの方から説明された。

「何球かやったらなんか、満足して飽きちゃったんだよね。」

『ぁ…そう…ごめんね、暇だったでしょ』

「いや？打ってる智くん見てて楽しかったよ？」

なんだか申し訳ないやらまだよく分かっていないやらでふわふわしたまま翔くんの隣に座った。