アトリエに残された桜 (ページ19)

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入り口の大きなアートで10分くらいはしゃいでいた。まだまだ最初の作品なのにこんなに時間を使ってしまって、エネルギーも時間もどれだけ使うんだ？

気が済んでようやく最初のアートを過ぎると次に見えてきたのは鯨が絵から飛び出してきているかのようなアート。

「うお～すっげえ！」

見るなりはしゃいで絵に近づいていく翔くん。

「撮って撮って！智くん！」

絵の前で襲われそうになるポーズをとる翔くんをパシャリ。うん、いい感じで襲われている。

『俺も撮って！』

負けじと俺も絵の前に立って俺が鯨を絵から引っ張り出したかのようなイメージで鯨を掴む。

パシャリ。

「あはは！何それ！智くんが鯨を出したの？笑」

『いやぁ～重いから大変だったよ～』

「あはは！すごい！」

翔くんが喜んでくれて何よりだ。

「今度は二人で撮ろうよ」

『お、いいね。どんなポーズにする？』

「今の智くんのやつがいい！」

あ、すみませ～ん。と翔くんが近くにいたお母さんに声を掛けてシャッターを頼む。戻ってきた翔くんと二人で鯨を掴んで必死そうな顔をした。

どうぞ、と返されたスマホを見ると二人ともすごくいい顔をして写っていた。

「いいねぇ、いいのが撮れた！」

さらにテンションに磨きがかかったような翔くんを見て俺もさらにテンションが上がった。

『だね、次行こう！』

俺の方から翔くんの手を取り次へ向かう。どのアートでも写真をしっかり撮りながらテンポよく廻っていく。

崖から落ちそうになったり空を飛んだり檻に閉じ込められたりしてとにかく楽しかった。翔くんと沢山たくさん、笑い合った。

楽しくて、楽しくて、楽しくて________。

たっぷりと楽しんで外へ出ると空がオレンジ色に変わっていた。建物の中にいたせいか、浴びた夕日がとても眩しくて思わず、目を背けた。

目を背けて後ろを振り返れば、翔くんがいる。

「楽しかったね、智くん」

ニコッと笑う翔くんを見て俺も笑う。
時間を忘れるほど楽しんだ今日をきっと永遠に忘れない。帰るのが寂しくて子供のように駄々をこねてしまいたくなる。

「そろそろ、帰ろうか」

『そう、だね』

帰りたくない、そう言っても良かったかもしれない。翔くんはもしかしたら、もう一件くらい遊びに付き合ってくれるかもしれない。

でも、そんなことをしていたらキリがない。

『じゃあ、またね』