アトリエに残された桜 (ページ13)

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『よーし、おーわり～』

片付けが粗方終わった頃、「もういいや」との俺のめんどくさがりが顔を出し、そろそろ出掛けようと準備を始めた。

財布を持って、携帯を持って、後は………

手ぶらで済ませようとポケットに押し込んでいく。いつも通りの身軽な格好の支度ができた。今日は昨日翔くんと行った相葉くんの店へひとりで行く。昨日会っただけだが、相葉くんはとても人が良さそうな感じで人見知りの気がある俺でもすぐ仲良くなれそうな、そんな印象だった。

ひとりだと、ちょっと緊張するな…

少々の緊張感を持ちながら、外への扉を開くと…

「あっ……」

…………桜が舞った気がした。

.

………………妄想その1！！！！！

いやまさか、まさか本当に妄想した通りになるなんて思わないじゃん？妄想は、妄想じゃん？だから、本当に、こんな偶然に、妄想が叶うなんて…………。

信じられない………………

「えっとー………もしかして出掛けるところだった？」

ちょっと気まずそうな、困ったような口調で翔くんが言った。

そう、翔くんが来た。

あまりの驚きと不意打ちに俺は未だ反応することができず、固まったままそこに突っ立って翔くんを見つめる。昨日と変わらない、だけど昨日よりも心なしか笑みが輝く彼が居て、やっぱりカッコいい人だ、美しい人だと思った。

「あのー、智くん？」

『あぁぁあ！ごめん！ちょっとびっくりして』

「ふふふっ、そんなに驚くかな。昨日会ったばっかだよ？」

『いや、昨日はなんか変な感じで別れたから』

「俺、また来るって言ったよ？」

『いやまぁ、そうだけど本当に来るなんて思わないじゃん』

「そうかなぁ？」

翔くんだ、翔くんだ、翔くんだ！

驚きが止まず、喜びと興奮が溢れ、同時に昨日のことを思って緊張が走る。今の俺には自分がちゃんと会話できているかどうかすらも分からない。

「どっか行くつもりだったんなら俺、帰ろうか？」

『へぁ？あぁ、別に用事って訳じゃなくて…お腹空いたから相葉くんのとこ行こうかなって』

「あぁそうなの？じゃあ一緒に行く？」

会話の主導権を握った爽やかな笑顔がこちらを見つめる。あぁ、何度見てもかっこいいな、なんて思いながら『うん』と答え、自然な流れで2人でこの、アトリエを出た。

昨日の"何か"がまた、やってくるような気がした。