それでもいい。 ページ5
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北side
今日は、何故か足が下駄箱ではなく、屋上へ進んだ。
ここにおらんといけん気がした。ここにおれば、なんや、安心出来る気がした。
本を読んどったら、誰かの、激しく大きい足音が聞こえて。
静かな階段の中、苦しそうな、今にもなくなってしまいそうな、そんな、儚い呼吸音が響いていた。
黒髪のショートカットに、黒のセーター。
確実に見覚えがあった。
せやから、声をかければ。
案の定、雨宮Aは泣いとった。
こいつのことや。また、なんかあったんやろう。
でも、それにしては様子がおかしくて。
大丈夫やと、声をかけとったら。
顔を上げた雨宮が、しっかりと俺を見て。
"……角名くん。"
と呼んだんや。
どうしようもない感情が押し寄せた。
何も考えられんかった。未だにお前の中に居座るあいつの存在の大きさを、改めて見せられた気がした。
でも、お前の、縋るような一言を。無下には、出来んかったんや。
せやから、せめてもの悪あがき。
「……なんや、雨宮」
関西弁で、お前を雨宮と呼んだ。角名は標準語で、お前を雨宮さんと呼ぶから。
せめてもの、悪あがきやった。
お前の目の前におるのは俺やと、少しでも認識させるための、どこか残酷な、悪あがき。
重ねた雨宮の手が、あまりにも震えとるから。
違う、今のは違うと、言い訳にも似た言葉を、雨宮が零すから。
嗚呼、結局、お前は苦しんでしまうんやな、と無理やりにでも笑った。
あの日、捌け口にでも何でもなったる、とお前に言うたあの日から。お前は、何も言うてこんかった。頼ってもくれんかった。少なからず、それがショックやったんやで。
侑に、雨宮が角名にフラれたこと、角名がハルにフラれたことを聞いて。俺の知らん間に、とにかくたくさんの悲しみがお前に訪れたことを知った。
でも、今。
お前を、助けられるチャンスが来た。
お前に、今、俺は頼ってもらっとる。
それが、どれだけ嬉しいことか。
「ごめん、なさ…!でも、いやだ、いや、離れて、いかないで…いやだ、いやだ!」
嗚呼、ほら。どれだけ謝っても、嫌だ嫌だと言うとっても、離れていかないで、と縋るお前を、どこか、優越感を秘めた目で見た。
嗚呼、俺は、この感情を知っとる。
頼られることへの依存。俺が一番初めにお前の苦労に気付いた、という優越感。
嗚呼、歪んだこの感情も。
お前の、踏切台となるのなら、支えるなら。
喜んで、俺はお前に依存する。
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はるか(プロフ) - この作品のことではないんですがブスの愛で方はもう公開されないんでしょうか? (2023年2月25日 13時) (レス) id: aa3e2fb3e0 (このIDを非表示/違反報告)
サラミ - なんかもう…本当に胸が痛かったです…なんでそんなに感動する文章かけるの…?という感じでした。辛いし、気持ちが凄くわかるし、頭がうああってなって(語彙力)気づいたら大号泣していました。本当に素敵なお話をありがとうございました。 (2023年1月18日 22時) (レス) @page50 id: 82adb6822c (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 北さんもいい……! めちゃくちゃにやけました! (2022年10月23日 0時) (レス) @page50 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
お布団 - 何回ワシをにやけさせんねん!! (2021年11月28日 10時) (レス) @page50 id: e77bb3532f (このIDを非表示/違反報告)
リンネ(プロフ) - 私、恋愛をした事なくて恋愛小説をどこか違う世界のものとして読んでました。でもこの小説は、感情移入してしまって雨宮の「自分が嫌い」という感情が私と重なって泣いてしまいました。あなたの言葉で救われた気がします。ありがとうございます。 (2021年7月5日 2時) (レス) id: 2b6f27f6e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:お水。 | 作成日時:2019年8月16日 11時