透明なガラス瓶・2 ページ34
太輔が来なくて配達にも行けなくて、太輔が用意してくれてるお菓子やお弁当もなくて…だから調子が狂っちゃったんだろうか。
太輔の声自体、今日は一度も聞いてないし。
「それだけ、ストレス発散になってたって事、か…?」
眩しい笑顔やクサい言葉に戸惑って、まっ赤な薔薇の花束の香りにくらくらして、豪華なおもてなしや直球の行為に恥ずかしさや少しの居心地の悪さを感じる、ここ半年間ずっとそんな毎日だった。
体も心も落ち着かなくて、一日に何度も惨めになったり期待をしたり、嬉しくなったり忙しかったけど…でも確かに、太輔と過ごす時間は居心地のいいものだった。
実はオレは、太輔に癒されてたのかもしれない。
「棘ごと抱きしめる。か…」
太輔に言われた言葉を、ふと思い出した。手に持ったままの薔薇の花束の向こうに、太輔の眩しい笑顔が見えた気がした。
棘の原因が、自分であれば嬉しいとも言ってた。
なんでだろう。オレは、太輔の傷を見た時、嬉しいとは思わなかった気がする。
それとも…一瞬でも嬉しいって思ったんだっけ?ただ忘れてるだけ?
腕の中にある薔薇達に視線を落とす。どの花も花びらや葉の先まですごく綺麗で、棘を除去された茎はつるんと滑らかだ。
綺麗な花だ。
傷も、傷つけるものも何もない、綺麗な花だ。見る者を癒して、虜にする。優しく包み込む。
太輔みたいだ。オレとは、違う。
(…っ)
靴を脱いで、リビングで花束を広げる。十二輪の花を、順番にハサミで切り落としていった。
「やっぱり綺麗だな。まだ」
テーブルの上の花瓶からも薔薇を抜き取って、順番に花を切り落とす。傷みかけのものは綺麗なものと一緒に密閉容器に詰めて、枯れかけてたり形の悪いものはゴミ箱に捨てた。
玄関やトイレや寝室にある花瓶を順番に回収しては、ハサミを動かしていく。
幸い、作り置きのおかず用にと密閉容器を腐るほどストックしているから助かった。これなら容器を買い足さなくても、今日の分は全部シリカゲルに埋められる。
そういえば最初に太輔と作ったドライフラワー、そろそろ開けて見てみなきゃいけないな、なんて思った。ハサミを握る手が、小さく上機嫌なリズムを刻み出す。サラサラと響くシリカゲルの音が気持ちいい。
「…よし。これで全部。明日また、容器とシリカゲル買いに行かないとな」
オレの部屋から、生きた薔薇が姿を消した。
194人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「Kis-My-Ft2」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
風華(プロフ) - ソフィアさん» 二人のお話を見届けてくださり、ありがとうございました。コメントもありがとうございます(*´▽`*) お互いの求めるものや背負った傷の違いが成り立たせる二人の関係を、少しでも描くことができていたら嬉しいです(^-^) (2021年5月10日 12時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - なかのさん» 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!更新は不定期ですが、作品の執筆自体は続けていくつもりですので、また見つけてくださった際は是非よろしくお願いします(*´人`*) (2021年5月10日 12時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - わたちゃんのピンと張り詰めて今にも切れそうなのと、たいちゃんのところどころ擦り切れてやっぱり切れそうな二人の心の糸が寄り添うことで、切れることなくしなやかに輝きを放っていくかのようなお話で素敵でした。ハッピーエンドで良かったです。 (2021年5月9日 21時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
なかの(プロフ) - 凄く素晴らしいお話しでした。毎回更新が楽しみで夢中になって読んでいました。また、お話し楽しみにしています。 (2021年5月9日 13時) (レス) id: 3b49c20ebb (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - はしもとさん» コメントありがとうございます!今回の設定、気に入って下さってすごく嬉しいです( ;∀;) 他メンの事にも触れていただいて…yさんとわちゃわちゃお仕事してる風景を想像した時に、この二人が似合うかなあと思いました(。-∀-) いつも本当にありがとうございます♪ (2021年2月26日 23時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:風華 | 作成日時:2021年2月21日 16時