透明なガラス瓶 ページ33
結局、その日一日は太輔がオレに会いに来ることはなかった。
太輔の教室が急遽休みになったから、いつもの配達も急遽キャンセル。電話も、メールも、ラインも何もなかった。
「…一日って、こんなに長かったっけ」
夕方の休憩室で、ふとそんな言葉が漏れた。宮田が小さく首をかしげて、作り笑いを浮かべる。
「どうしたの横尾さん。ヒロインの次は哲学者になるの?」
「うるさい。誰がヒロインだ」
オレはヒロインなんかじゃない。
そんな資格は、オレにはない。
宮田が、ははっと朗らかな笑い声をあげた。
「でもまあ、今日は確かに長いかも。やっと二回目の休憩かあって感じ。千ちゃん休みだし、藤ヶ谷さんも来てくれないし配達も中止だしで暇だから」
「…うん」
「ドラマに出てるから取材とかで忙しいんだろうなあ。ほんと凄いなあ、藤ヶ谷さん」
「…そうだな」
太輔は、すごい。
その言葉が、オレの心の醜い部分を突き上げてきた。
まるで、お前はすごくない、お前とは正反対だと言われてるような気がした。
痛みの走った親指の付け根を、隠すようにして左手で握り込む。
同じ場所に傷を負った二人の、正反対の人生。
こんなにも違う。
太輔は選ばれた人で、オレは選ばれなかった人だ。
輝きを絶やさず増していく、太輔のそんな光がオレは、めまいがするほど眩しくて、めまいがするほど羨ましい。
…オレは、すごい人にはなれなかったから。
「あっそうだ横尾さん。あとでちょっとだけ髪切ってくれない?今度の休みに嫁の実家に行かなきゃいけなくなっちゃって」
「ああ。…うん、いいよ」
嫁。小顔でスタイルの良い、モデルみたいなあの子か。
一度だけ会った宮田の『嫁』を思い出して頷くと、宮田が満面の笑みを浮かべた。
「やった!明日のランチ、どこ行きたいか考えといてねー」
幸せそうな顔で仕事に戻る宮田の背中を見つめながら
(恋のフィルムって、きっとこういう事を言うんだよな)
なんて思いながら、太輔とオレの関係との違いを比べていた。
宮田の髪をメンテして、明日の昼にホテルのバイキングに連れていってもらう約束をした。長い一日を終えて、家に帰ってくる。
「…ふぅ」
玄関のドアを入った瞬間、大きなため息が出た。なんだか今日はいつもより疲れてるような気がする。体全体が、なんだか重い。
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風華(プロフ) - ソフィアさん» 二人のお話を見届けてくださり、ありがとうございました。コメントもありがとうございます(*´▽`*) お互いの求めるものや背負った傷の違いが成り立たせる二人の関係を、少しでも描くことができていたら嬉しいです(^-^) (2021年5月10日 12時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - なかのさん» 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!更新は不定期ですが、作品の執筆自体は続けていくつもりですので、また見つけてくださった際は是非よろしくお願いします(*´人`*) (2021年5月10日 12時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
ソフィア(プロフ) - わたちゃんのピンと張り詰めて今にも切れそうなのと、たいちゃんのところどころ擦り切れてやっぱり切れそうな二人の心の糸が寄り添うことで、切れることなくしなやかに輝きを放っていくかのようなお話で素敵でした。ハッピーエンドで良かったです。 (2021年5月9日 21時) (レス) id: 06f6b1f19d (このIDを非表示/違反報告)
なかの(プロフ) - 凄く素晴らしいお話しでした。毎回更新が楽しみで夢中になって読んでいました。また、お話し楽しみにしています。 (2021年5月9日 13時) (レス) id: 3b49c20ebb (このIDを非表示/違反報告)
風華(プロフ) - はしもとさん» コメントありがとうございます!今回の設定、気に入って下さってすごく嬉しいです( ;∀;) 他メンの事にも触れていただいて…yさんとわちゃわちゃお仕事してる風景を想像した時に、この二人が似合うかなあと思いました(。-∀-) いつも本当にありがとうございます♪ (2021年2月26日 23時) (レス) id: e81894f7b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:風華 | 作成日時:2021年2月21日 16時