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「え、ノートを貸してほしい？」
「うん、明日にはちゃんと返すから」
Aちゃんは最近、よく物をなくしている。
「授業の時さえ返してくれれば明日じゃなくてもいいけど…」
「ほんと？ありがとう、助かるよ」
「Aちゃんの役に立つならそれぐらい大丈夫。それよりどうしたの、またなくなった？」
首を傾げると、Aちゃんが困ったように眉を下げた。一つ一つの表情が綺麗で見惚れそうになるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「ロッカーに入れたはずなのに、さっき見たらなくて…夏休みボケでぼーっとしてるのかも、ごめんね」
申し訳なさそうな顔をされた。
そうは言っても、しっかりしてるAちゃんが消しゴムもペンもなくしてさらにノートもなんて、さすがにおかしい。
誰かが盗んでいるのではないだろうか。
「Aちゃん、他に何か変わったことはない？」
「え…うーん…」
考える仕草。緩くカーブした髪の毛が揺れる。
「特に無いと思う…多分」
「…そっか」
Aちゃんの返事を聞きつつ、考える。
Aちゃんは見ての通り綺麗なので、好意を寄せている男子が数多くいることは把握している。でもAちゃんのものを盗むほどとなるとさすがにいないだろうし、私の知っている限りそんなことをしそうな奴はいない。
それに、Aちゃんとゾム先輩が付き合っているという話はその手の人達の間では広まっているはずだ。
だとすれば、嫌がらせか。
Aちゃんにノートを渡してからスマホを取り出し、数人にメッセージを送る。
Aちゃんを傷付ける奴がいるなら、相手が誰だろうがAちゃんが悪かろうが止める、Aちゃんを大好きになったあの日からそう決めていた。
今がその時なんじゃないか？
絶対に犯人を突き止める、そしてAちゃんをまたいつも通りの生活に戻す。その2つをひっそり胸に刻んで、私はスマホをしまった。
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