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小さな事件から、少しの時間が過ぎた。

私の絵が小さく座った、期間限定のグッズは、あっという間に売り切れたという話を聞いた。普段使いがしやすいものにしたんです、と、サンプルを持ってきてくれた結城さんは、私の絵が世の中にでることを、とても喜んでくれていた。

丸く収まって、よかったなあと思う。きっと、彼女は無理をしていると思うけれど、それは見て見ぬふりをしている。それが俺たちにできることだから、そう誠知くんに諭されたから、なおさら。



「誠知くん、そのタオル」

「え?…あー、」

「私もね、結城さんからもらったよ。デザインがかわいいから、パッと見野球グッズって分からないね」

「…これ使ってると、茶化される。特にギータさんとか、」



デーゲーム終わり、アトリエまで迎えに来てくれた誠知くんと、久しぶりにデートをすることになった。疲れてないか心配だったけど、明日は移動ない休みだから、と、少し浮き足立った彼の、分かりづらく緩んだ表情がかわいい。

デート、なのに、デニムできてしまう私に、誠知くんは、らしくていいっす、と笑った。葵は目立つから、とシンプルな格好をしてほしがる誠知くんだけど、決して私が目立つのではなくて、誠知くんが目立っていることに、彼自身はまったく気付いていない。

車を走らせる誠知くん。どこに行くのか、途中まで分からなかったが、見慣れた道を見てなんとなく察した。きっと、あそこに行くんだ。私たちの、大切な場所に。



「あら、いらっしゃい」



相変わらず、きれいなマスター。大人で落ち着いていて、すてきな女性。いつも通りのカウンターに座ると、珈琲の香りと、かすみ草のドライフラワーと、その手前に飾られた私の絵が、変わらずに笑っていた。



「……あ!」

「ちょ、なに。びっくりした、」

「私、マスターに注文受けてたよね…!」

「あらいいのよ、いつでも」

「ううん、ごめんなさい。落ち着いてきたから、近いうちに納品するね」

「…この間の作品は、上林くんになっちゃったものね?」

「…うん、なっちゃってたね」



素直でよろしい、とマスターが笑う。隣の誠知くんは、ああ、と思い出したかのように声を出した。そして、恥ずかしそうに俯いて、ポーカーフェイスを崩さないようにコーヒーを頼んだ。

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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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