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「ふたり揃ってお店に来てくれるなんて、夢のようだわ」
「…ずっと挨拶に来たかったんすけど、なかなか時間がとれなくて。すみません」
「ううん、いいの。挨拶なんてそんな、大層なものはいらないわ。ただ、ふたりで、来てくれたことに感激してるの、」
だいすきなふたりだもの、やっぱり揃うととてもお似合い。そう、心底嬉しそうなマスターに、なんだか涙腺が緩みそうになってしまう。
私たちの周りには、いつの間にか見守ってくれる、たくさんの愛しいひとたちがいた。春のような暖かさを含んだ、包み込んでくれるひとたち。
「改めて、葵とお付き合いさせてもらってます」
「…上林くんは、真面目で不器用ね」
「やっぱり、マスターにはきちんと、報告をしておきたかった。葵のこと、妹みたいに可愛がってるし」
「あら、じゃあ、こわいお姉さんにご報告?」
「…一応、そっすね」
「ふふ、…葵ちゃんをよろしくお願いします」
誠知くんの瞳が真剣で、まるで、結婚の許しを得るような固さがあって。少しずつ恥ずかしくなって、俯いてしまった私を、マスターは見つけてしまう。
「葵ちゃん、結婚の許しを得てるみたい、なんて思ったでしょ?」
そう、楽しそうに話すから、そんなんじゃないよ、と誤魔化すので精一杯。それなのに。
「俺、それくらいの覚悟で、ここ来たわ」
なんて、誠知くんは表情を変えずに言う。ふたりから茶化されているのか、そんな気持ちになって、小さく背中を丸めてしまった。
「上林くんはそうでしょうね、」
「え?」
「だって、私。葵ちゃんのことだいすきだもの。上林くんもそのことを、よおく分かってる。生半可な気持ちでは、付き合ってます、なんて言いにこないわ。…そうでしょう?」
「…さあ、」
「泣かしたら、お姉さん許さないわよ?」
楽しそうに、彼女は言う。誠知くんは小さく笑ったあと、肝に銘じます、とまた真面目な顔をして言った。
そんなふたりが、愛しいなあ、と思う。
だいすきなものに囲まれて、私は私らしく生きてきたけれど。輝くためには、きっと、愛しいひとたちを大切にしなくちゃ、だめなんだ。そう、改めて思う。
春みたいな、ひと。そう言ってくれた誠知くんを、あたたかく包めるひとに、なりたいな。
そう、小さく呟くと、驚いた顔をした誠知くんは、もうなってる、と、私の頭を撫でながら、小さく笑った。
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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時