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泣いたり、笑ってみたり、怒ってみたり、ー。

だいすきな音楽が小さくアトリエに響く。外は雨がザアザア降り続いて、だいすきな音を消そうしてくる、五月蝿い。この雨はまるで、彼女の気持ちを表しているかのようだった。

きっと彼女は雨のように涙を流しているに違いない。かわいい彼女の、歪んだ顔と綺麗な涙が脳裏に張り付いて離れない。ああ、五月蝿い。



あの日は、何も触れずに仕事を終えて帰った。結城さんとは会えずじまいだった。誠知くんとも会えなくて、驚いていた柳田選手を宥めることで精一杯だった。何も知らなかった柳田選手は、少しずつ状況を飲み込んだようで、結城さんは誠知くんがすきだと事実にただただ呆気にとられていた。

俺、いらんこと言うた、と後悔を滲ませた言葉に、私が悲しくなってしまって。申し訳なさについ謝ってしまうと、



「葵ちゃんは悪ない。仕方ないじゃろ、誠知は葵ちゃんがすきなんやから」



そう、笑ってくれた。ただその笑顔は少し困っているように見えた。いろんな人を困らせてしまったこの恋から、目を逸らしてしまいたくなった。

そんな気持ちのまま、明日にはヤフオクドームに向かわなければならない。仕事を引き受けたからには、公私混同は大人として情けないと分かっている。だけど、やっぱり少し行きづらさを感じてしまって。

どんな顔して彼女と会えばいいのかな。きっと彼女も、私と同じ気持ちでいると思う。あと、誠知くんはどうしているだろうか。あの日から連絡がない。


こんな気持ちだから、お気に入りの洋服を着よう。ひとりで居たくないから、やっぱり私はあの場所に逃げたくなってしまって、アトリエを出た。



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「あら、葵ちゃん」



変わらない笑顔で迎えてくれた、きれいな人。安心できる場所。マスターは変わらず、穏やかに迎えてくれた。ただ、私の気持ちを察して、そっと椅子を引いてくれる。



「…今日はチーズケーキが焼けたの。いかがかしら?」

「……食べたい」

「いちばん、大きいものをあげちゃう。ちょっと待っててちょうだい」



「ねえ、マスター」

「ん?」

「好きなひとを思うことが、誰かを悲しませることになっちゃったら、マスターならどうする……?」



驚いた顔をしたマスターは、うーん、と悩んで。ただ、何も迷いがない表情であっけらかんと、一言。



「思い続けるわ。だって、恋なんてそんなものでしょう」

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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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