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「葵さん、この絵…」



結城さんの視線の先に、誠知くんと内川さんを描いた絵。着々と増えていく絵は、建物内の一室に保管させてもらっていた。手帳を手に握ったまま、ゆっくり絵に近づいていく彼女。ヒールの音が小さく響く。


ーーー誠知のことがすきなんだろうなあ、ってこの絵を見ると伝わるよ


ふと、内川さんの言葉が脳裏を過ぎる。いや、まさか。そう思いながら、なんだか嫌な予感がして、胸がどきどきしてしまった。



「誠知くんと内川さん、どちらもすてきです…。葵さんにお願いして、本当によかった」

「いえ、そんな。うれしいです、とっても」

「特に誠知くんの絵が、本当にすてき。なんでこんな誠知くんが描けるんだろう。誠知くんの内側の部分がすごく伝わります」

「あ、りがとうございます」

「…初対面だったのに、本当にすごい」



どうしよう、胸が苦しい。なんて言ったら良いか分からない。まだ彼女が誠知くんをすきだなんて、決まったわけじゃない。後ろめたさなんかいらないのに、どうして。

誠知くんの絵を見つめる彼女の瞳が、恋しくて仕方ないという風に見えてしまうのは、私の勘違いであってほしい。



「あの、結城さん、」


「初対面ちゃうやろ。誠知と葵ちゃん、付き合っとるんじゃって」



しん、と静かになった気がした。ああ、やっぱりと思った。

柳田選手が悪気なく言ったのは分かっている。この流れからして、話すのは当然だろう。広報職員である彼女は信頼されていて、プライベートな話を漏らすようなひとではない。

だけど、私はただ、俯くしかなかった。すると、結城さんの手から手帳が滑り落ちた。正確には、滑り落ちた音が聞こえた。



「…っやだあ、知らなかった」

「えっ、と結城さん、」

「びっくりして落としちゃいました」

「……」

「この間、教えてくれれば、よかった…のに」



ーーーああ、涙が。



彼女の頬に耐えきれない涙が傳う。それが、彼女の気持ちであって、真実だった。結城さんは誠知がすきで、それもだいすきで、私という彼女がいたという真実に傷付いてしまった。

ごめんなさい、と止まらない涙を拭う彼女を、柳田選手は驚いて見つめていた。私は言葉が出なくて、ただ、耳に張り付く心臓の音を聞いていた。



「…今日は、すみません。私、失礼しますね、」

「あの、結城さん」


「本当に、ごめんなさい」



静かにしまった扉。嵐の前の静けさに感じて、掌をぎゅっと握った。

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aoi(プロフ) - みゆうさん» こちらこそです*楽しみにしています。 (2019年3月5日 1時) (レス) id: 1e8b3648c1 (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさん» 見てきただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2019年3月4日 22時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)
aoi(プロフ) - みゆうさん» とてもありがたいお言葉ありがとうございます…!意識している部分でもあったので、嬉しいです*そして実は私、みゆうさんのおはなし拝見させてもらってます。私こそ更新楽しみにしています* (2019年3月1日 0時) (レス) id: ddb827d49e (このIDを非表示/違反報告)
みゆう(プロフ) - aoiさんの書く小説、主人公の見ている景色や生活の雰囲気だったり、想像力が膨らんで、心がほっこりする言葉の使い方が凄く好きです。更新楽しみにしています! (2019年3月1日 0時) (レス) id: faf8ae436c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:aoi | 作成日時:2019年2月28日 23時

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