宝石箱とサイケデリック - [ 短編集 ] -

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夜景を映す海のそばに車を停めた渡辺。





さっきとは打って変わって
しん、とした車内で「なあ、横来いよ」と渡辺が言った。









「……え、いいよ、ここで」

「いや何で？そんな嫌？俺の横は」

「…嫌とかじゃないけど……」

「この前も俺の横くれば？っつったのに」








飲んだ日のことを持ち出してくる渡辺。




「ふっかの横は良くて俺はだめなの？」と
後部座席の私を振り返ったその顔は笑ってはいなかった。








「んじゃ俺がそっち行ってい？」

「……へ？」








言葉の意味が分からず、私がぼーっとしている間に

渡辺は運転席から降りて私の横のドアを開けると
グイグイと無理矢理詰めて乗ってきた。








「…え、ちょっ、渡辺、待っ……

………っ……！………！！」









至近距離






身体と身体がくっついて


暗闇で2人の目と目がしっかりと合ったその瞬間、


渡辺は突然私の後頭部を引いてキスを落とした。








その流れがあまりに自然で




私は拒否することなんて忘れて彼の唇を受け入れて

意外と逞しい彼の腕にそっ、と触れた。









「………なあ、」

「…」

「………なあ、いい？」








渡辺はまた、返事を待たずして私にキスを落とす。








何度も何度も角度を変えて




時々唇を少し離して私の様子を伺って、




また徐々に激しいキスをしながら
そっ、とシートごと身体を押し倒して私の上に馬乗りになる渡辺。









この間のように酔っているわけじゃない





でも私たちは





互いの心を探るように恐る恐る触れ合って

身体を繋げてしまった。









渡辺は＿＿＿＿＿＿









「……ぁ、……っ…や、」


「……きっつ………ね、…もうちょい力抜ける、？」









粗野なヤツだったはずなのに




すごく丁寧に丁寧に私を優しく抱いた。









抱かれながらも




ああ、この人とはきっとこれっきりだなんて寂しいことを思った。









なのに、渡辺はいつも私の想像とは違った。









「……俺さ、高校ん時好きだったけどね」

「……え？」

「Aのこと。……あーはっずい、やぁばい」

「だって渡辺、私のこと悪く言ってたくせに」

「……は？いつ？」









抱かれたあとの車内で、どうして私が渡辺を嫌いになったかを説明したら恥ずかしそうに彼は頭をかいた。









「…んなの強がり。好きなの。…昔から」








そう言ってまたキスをした。






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