宝石箱とサイケデリック - [ 短編集 ] -

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「あ、そう言えば何買いたかったの？」









そう尋ねれば渡辺は
「あー加湿器。それと美顔器」なんて食い気味に即答。









「今から買いに行ってい？んで一緒に選んでくんね？」

「…まあいいけど。意外と美容男子なんだね」

「お前さ、スキンケア舐めてると老後痛い目見るぞ」








ぐははっ！と変な笑い方をする渡辺に連れられて、
仕事終わりに大して仲良くもない男女2人が
電化製品の売り場で難しい顔をして腕を組む。







無計画もいいところだ。

「どれがいいと思う？」「私も分からん…」
「いや俺も分からん」という不毛なやり取りに1時間も使って。







結局ネットで高評価のものを買うと
それぞれの箱をそれぞれの小脇に抱えてお店を後にした。









「たっか、加湿器たっか」

「こんぐらいいいのじゃないとお肌が泣く」

「はいはいそっか」

「んじゃまだドライブ付き合えよ」









思わず「えっ？」と素っ頓狂な声を出す。




これで終わりと思ってたら
渡辺はまだまだ私を家に帰す気はないようで。









「特別に俺が仕事中よく行ってるおサボりスポット
連れてってやるよ」

「え。いい、別に大丈夫」

「ふはっ！遠慮すんなって。んじゃ飛ばすんで」

「え！！！ちょっと！！！！」









宝石箱をひっくり返したような、

キラキラとした街並みの中を荒く駆け抜けていく
渡辺の自慢の車。









ふざけて私側の窓を全開にされて


せっかく直した髪の毛ももう、あられもなくボッサボサ。









ムードもクソもない



やっぱコイツよくわかんない、と思いながらも



謎に楽しそうな渡辺につられて私もすっごく笑顔になっていった。









……ねえ、高校の時の私。



あの渡辺翔太と、こんな風に2人きりで笑う未来を
あの頃の私は1ミリでも想像できた？









……ねえ、失恋したばかりの私。




失恋なんて忘れちゃうほど




昔嫌いだった男とキラキラした時間を過ごしているなんて考えられた？









「フゥーーーーっ！！

着いたーーーー！！！！ここ！！俺のサボり場！」









「いいだろ！！！ぐはは！！」とテンションがえらいことになってる渡辺が、ぐるりと後部座席の私を振り返って笑った。







水面に映る夜の空とキラキラな都会の光が美しい。








こんなロマンチックなところ、


私なんかと来ちゃって本当にいいの？渡辺。と問いたくなるほど綺麗な場所だった。








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