彼の名は、模部川 茂文緒 ページ16
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小西さんと別れたあと、私は急ぎ足で現場に戻る廊下を歩いていた。なぜにこんなにも遠く感じるのか
やっとのことで最後の曲がり角を曲がった瞬間、どくんとひとつ、大きく心臓が飛び上がった
『つだ…さ、』
津田さんが調度、こちらに向かって歩いてきているのに出くわしたのだ。
伏せ目がちにして歩いていた津田さんが私に気付いたのかふと顔を上げ、ばちり、と目が合う
でも、
あ、れ…、
津田さんて、あんなに、冷たいような瞳をしていたっけ…こんなに、話しかけづらかったけ…
みるみる口内の水分が奪われて行くよいな感覚に
『っ、』
思わず一歩後ずさったとき、どんっと衝撃が背中に走った
「おっあ、すみません穴澤さん!」
『あ、』
返りみれば、そこには後輩の声優くんが驚いたように目を見開いていた。
「ど、どうしたんですか?」と心配そうに声をかけてくれるその後輩くんに大丈夫と答えながらも津田さんの方を気にすれば、彼はもうさっきの場所にはいなくて、
津田)「…お疲れ様、」
その一言だけ去り際に残して歩き出していた
「あ、お疲れ様です!!」
去っていく津田さんの背中に頭を下げながらそう返したが後輩くんこちらに視線を戻すと、ぎょっとしたような顔をして声をあげた
「え、あ、穴澤さん??ど、どうしちゃったんですか?!」
『え、』
なんでそんな泣きそうな顔を、という後輩くんの声がなぜか遠くの方から聞こえてくる、そう感じた瞬間、ツンとあの、いやな感覚。あの、塩辛いものが、目からこぼれ出てしまう、あのときの感覚が、いやだ、いやだと思うのに、どうしようもなく襲ってくる、とめどなく、押し寄せてしまって、
もう、どうしたらいいのか、わからない、
人前でなんて泣きたくない、でも逃げられない、がまんできない、お願いだから、もう、もう、もう、
『津田さ、っ、、!』
名前を呼んだ瞬間もう止めることは出来なかった
でもなぜか私の目の前にはあの後輩くんじゃなくて、
津田)「ごめんなぁ!こいつ腹減っててさー!」
後輩くんの前から連れ去るように私の腕をひく見慣れたはずの、でも懐かしくてたまらない、
『あ…つ、だ、さ…ん、』
逞しい背中だった。
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もんぷち(プロフ) - とめいとさん» なーにをおっしゃいますか!!!上からでも横からでも正面からでもなんでも言ってください!?とめいとさんにコメントいただけて嬉しかったので!!!どうぞどうぞ、またご不明な点あってもなくても、もんぷちにかまってやってください…! (2020年4月7日 15時) (レス) id: 169ed50379 (このIDを非表示/違反報告)
とめいと - もんぷちさん» あっそうなんですね!あらやだイケ健次郎←上から目線の質問なのにわざわざありがとうございます!そして、すいませんでした!m(__)mm(__)m (2020年4月6日 9時) (レス) id: 9566df4109 (このIDを非表示/違反報告)
もんぷち(プロフ) - とめいとさん» いえいえ質問ありがとうございます!あはは、あれは私がうやむや〜な感じで終わらせてしまいまして分かりづらかったですよね(;_;)私の中では、穴澤ちゃんが無理しすぎちゃって自分を大切にしていなかったから。という感じにしております。 (2020年4月5日 20時) (レス) id: 169ed50379 (このIDを非表示/違反報告)
もんぷち(プロフ) - 鈴蘭さん» もんぷちピンピンしております!!ご心配ありがとうございます〜 鈴蘭さんもご自愛くださいね!! (2020年4月5日 20時) (レス) id: 169ed50379 (このIDを非表示/違反報告)
とめいと - すみません!質問良いですか?結構前に穴澤ちゃん津田さんと喧嘩したじゃないですか。結局喧嘩の理由って何だったんですか? (2020年4月5日 15時) (レス) id: 9566df4109 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もんぷち | 作者ホームページ:@urtkanother
作成日時:2018年7月21日 20時