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この謎に余裕のある感じがいいのかもしれないが知りたくなってしまった情報はがぽんぽんと出てくるのにひとつも教えて貰えないのは不服だ。そんなことを思っていると、握られた手のひらにぎゅっと力を込められる。
「!」
「この、手に関してはなんも言わねーのかよ。……結構ゆきむら。勇気だしたんだけど?」
「へっ!」
まるで私の手の形を確かめるみたいにぎゅ、ぎゅっ、とだんだん力を入れて、そのうち指と指の間に入り込んで結ばれてしまいそうだ。
そうなる前に一度距離を取って「あ、あ、あ!」ととりあえず意味の無い声をあげる。
「いっ、色んなことが一変に起きてそのっ、反応が遅れました……」
「あ。おれが一番最後ってこと? りょうかい」
「ちがっ、違う違うちがう。その、ドキドキすると、全てが思考停止になってしまうので、それを避けるために敢えて忘れたと、いいますか……」
「へぇ? なに。ドキドキしてんの?」
「!」
ここは別にホストクラブでもなければ、室内でもない。周りからの視線も当然ある訳で、チラチラと向けられる視線が居心地悪い。なのにそれを上回ってドキドキしてしまう心臓がとても場違いな気がする。
「ま。そんなんどーでもいいや。……タクシー拾うから大通り出るよ」
「え、え……? お店は……?」
「来たくて来たわけじゃないんだろ。
この荷物だし、寄って帰る頃にまた他の奴らに目付けられたんじゃ意味ないし」
「じゃあ、私ひとりでも……!」
「今店戻んの嫌だから。サボり」
離れた右手。
何か言う前に私のキャリーケースを引いてくれるゆきむらさんの後ろ姿を見てトクン、トクンと静かに胸が高鳴る。
サボりって……、絶対嘘、というか。私が気を使わないようにしてくれてるじゃん……。結構不器用なところあるのかな、かわいい、……可愛いと同時にかっこいいとも思ってしまう。
「何してんの。はぐれるよ」
「あっ、はい!」
シンデレラみたいな綺麗な靴じゃない足音を響かせながら彼の横に立つ。お迎えは馬車ではないけれど、それでも店の外で起きた出来事が全部夢みたいで、運命かもしれないと思ったのだ。
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作者名:Stellar | 作成日時:2022年10月23日 12時