初回 ページ5
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まだ視界が潤む瞳でカレの紫色の瞳を真っ直ぐ見つめる。私のバカ真面目な真剣さが伝わったのか、少し笑って手を差し出すカレ。
「じゃあ、甘い世界へ。一緒に行こっ? お姉さん」
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五分ほど歩いた先にあるホストクラブ。八階建てのビルのエレベーターに乗って『6』のボタンを押したカレは少しソワソワしている私に「緊張してる?」なんて声をかけてくれた。
「え、えっと少しだけ」
「あははっ。大丈夫! 僕よりかっこいい人たくさんいるしぃ、絶対ぜったい素敵な夜になるから安心してよ」
チン────と高いベルの音の後にエレベーターの扉が開く。広く見える鏡張りの壁に、高級感漂う黒をベースにした店内。「どうぞ」とエスコートされた手に手を重ねて店に入る。
「いらっしゃいませぇ〜」
出迎えてくれたのは低身長の男の子。オレンジ色の髪に水色の瞳。白いシャツに黒のベストを着ただけのシンプルな身のこなしだが横にいるカレに負けないくらい顔がいい。
ふわふわとした緩い口調もまたギャップがあり、かっこいいだけでなく可愛いも兼ね備えている。
「ちゅちゅ。この子新規のお客様だから初回のコースで通してくれる?」
「うん。わかったぁ」
「あっりがとー! じゃあ黒服の子について行ってね。僕は用意してくるから!」
「は、はい」
ばいばーいと先に店の奥に入っていくカレ。今オレンジ色の髪の子と二人っきりだが、柔らかい雰囲気だからか緊張はあまりしない。目が合えばふわりと緩く微笑んでくれる。
『ちゅちゅ』って呼ばれてたけど、ニックネーム? この子は黒服って呼ばれてたからホストじゃないのか。ホストでも人気出そうなのに。
「じゃあ、席までご案内いたします。お姫様」
胸に手を当てて顔を傾ける。その仕草だけで女の子はキャーキャー言いそうなものだ。優しく手を引かれて店内を歩いていく。
他の席も丸見え。ほとんどが一体一でお酒を飲んでいる光景に慣れないまま足を進めて行けば、黒髪で長髪の所々に緑メッシュが入った男性がにこやかに手を振ってくれた。
「……」
ぺこりと一応頭を下げておく。その後隣に座っている女の子に「もう、どこ見てんの?」なんて怒られていたが軽く笑って流していた。
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作者名:Stellar | 作成日時:2022年10月23日 12時