10 ページ37
地下に誰もいない事に気づいた目黒は、キッチンの換気扇の下で一人煙草を吸っていた。
眠れなかった。精神の安寧を手に入れたとはいえ、最低限の眠りに慣れきった体はなかなか睡眠を欲してはくれない。
二本目の煙草に火をつけた時、誰かが階段を降りてくる音がした。佐久間だった。
sk「およよ? 誰もいないと思ったのに」
mg「……佐久間くん、」
sk「えへー、喉渇いちゃって」
佐久間は冷蔵庫の水を飲むと、置いてあった目黒の煙草に目をやった。
それを手に取る直前の彼の目が、一瞬死んでいた事に目黒は気づいている。
sk「……一本もらって良い?」
mg「佐久間くんって吸うの」
sk「んもー、佐久間さんだって大人だぞ」
佐久間は目黒が許可を出す前に一本取り出し、それを咥えた口を目黒に突き出した。
目黒は一瞬迷って、自らが咥えている煙草を佐久間のものにそっと当てた。静かに火が移っていく。
佐久間は大きな目を更に大きく開き、わざとらしく後ずさった。
sk「えっえっえっ、普通に火つけてもらうつもりだったのに、そんなお洒落な事するなんて……」
mg「……」
sk「やだあ、惚れちゃうんだけどお……ってかこれ吸いやすいね」
mg「……」
目黒の視線に憂慮を感じて、佐久間は空元気で繕った笑いを苦笑いに変えた。
道化を演じて誤魔化せる程二人の関係はもう浅くない。
しばしの沈黙が流れる。それを破ったのは佐久間だった。
sk「あの子は……家族はいたのかな」
mg「……」
sk「何時からあんなんだったのかな」
mg「……」
sk「……壊れてないかな」
相槌を打つ代わりに煙を吐き出していた目黒は、その問いにはちゃんと答えた。
mg「……きっと壊れてないよ」
sk「……」
mg「根拠は……無い、けど」
sk「……」
mg「俺もあの子が汚されてないか心配してる」
sk「それは……大丈夫だよきっと、分かんないけど」
不確かな願望が煙と共に消えていく。
口に残った煙を吐き出した後、まだ吸えそうな煙草を灰皿に押しつけた佐久間がはっきり呟いた。
sk「……あの子は守りたい」
mg「うん、」
sk「俺みたいに……壊れないように守らなきゃ」
佐久間が作業台の上で拳を握っていた。
目黒は頷く代わりに持っていた煙草を咥え、空いた右手でその拳をそっと包んだ。
彼もあの子を汚したくは無い。自分のような目に遭わせてたまるか。
あの少年の事はまだほとんど知らない。でも、あの子にきっと罪は無い。
二人の視線が交わる。互いの目の奥で静かに炎が燃えていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1673人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
怜(プロフ) - 如月ﾖｼﾉ。さん» ありがとうございます! そうですめめです! ゆっくりですがこれからもお付き合いよろしくお願いいたします! (2020年7月16日 21時) (
レス) id: 03141f9b41 (このIDを非表示/違反報告)
如月ﾖｼﾉ。(プロフ) - 移行おめでとうございます！次の加入組はめめですかね？今後の展開も楽しみにしています！ (2020年7月13日 0時) (レス) id: 3bc10946d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：怜
| 作成日時：2020年7月12日 15時
