10 奪われたのは… ページ10
『…本当にありがとうございました…』
少しだけ頭を下げて礼を口にするあゆな。
車内に充満する甘い香りに
俺の限界は近い。
いや、ダメだっ!
何とか耐えろ…ッ!!
ゆっくりとした動作でシートベルトを外し、ドアを開けてあゆなが車を降りていくのを、じっと見つめ…。
助手席のドアが閉まったのを確認した途端、無意識に止めていた息を吐き出した。
「…危なかった…」
つい、また手が出そうになったのを必死に抑えた事で、一気に疲労に襲われ、身体全体が重くなる。
さすがに、男達に絡まれ怯えているあゆなを、車内という密室で組敷いてしまったら今度こそ終わりだ。
あゆなが実家と思われる小綺麗な一軒家へと入っていったのを見届け、一度だけ深呼吸をして車を走らせた。
【あゆなside】
閉めたドアに背を預け、そのまま玄関にズルズルとしゃがみこんだ。
口を覆う両手が未だに微かに震えている。
今日は私の人生で一番、色んな事が目まぐるしく起こり、まだ頭の中がグチャグチャしてる…。
だけど、確かなことは…。
男の人に襲われそうになったところを、理人さんが助けてくれたこと。
その理人さんに、惹かれていること。
出逢ったばかりで、こんな風に気持ちを滅茶苦茶に掻き回されたことなんて初めてで…。
対応する術もわからず、収拾がつかない。
それに…。
〜〜♪
いつも通りの時間に鳴るスマホの着信音。
『もしもし…』
「あゆな?何かあったのか!?声が震えてる」
『…ううん。何も無いよ、大丈夫。急いで走って帰ってきたから息が切れちゃって…』
「そうか。俺はこれから取引先と飲み会なんだ。終わったらまた電話する」
『うん。営業は大変だね、頑張って。飲み過ぎないでね』
「あぁ。明日、お前と泊まりで温泉に行くためなら、制御出来るし二日酔いも全然平気だ」
『うん…楽しみにしてる』
「じゃあ、後でな」そう言って電話を切った斗真。
1年前に告白されてから付き合っている彼氏だ。
明日からの連休を利用して、近場の温泉へ一泊旅行をする予定になっている。
藤崎
同じ会社に勤める同期で、毎日、仕事終わりの定時になると、電話かLINEで連絡をしてくるのが日課だった。
今日は私が公休消化で休んでいたので、電話をしてきたのだ。
彼氏がいるのに…あんなこと…。
私って意外と浮気性なのかな…。
斗真の事は好きだし、身体の関係も既にある。
なのに…。
出逢ったばかりの理人さんに、こんなにも心を奪われるなんて…――
*
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作者名:夢梨 | 作成日時:2018年11月4日 15時