32 誕生日 ページ32
イルミネーションが輝く広場を流れる人の波を、ボーッと眺めて数分、
『…理人…さん…』
「…あゆな…」
名前を呟くように呼ばれた、それだけで胸が高鳴る。
こんなの、凄く困る。
顔に熱が集まる感覚に、少し俯いた。
「デートの待ち合わせか？」
『はい…理人さんは…』
「俺は…買い物の帰りだ」
『そう…ですか…』
理人さんを拒絶したあの日から数週間。
私は大分落ち着いて彼に向き合えていた。
「あぁ、今日はイブだったな…」
私の後ろにそびえ立つ大きなもみの木のイルミネーションを見上げたまま、理人さんは動かなくなった。
どこかに思いを馳せているのか、次第に眉間のシワが深くなり、辛そうな顔に…。
…ううん、違う。
これは…泣きそうな顔だ。
どうして…？
『理人さん…大丈夫ですか？』
「あぁ…少し…昔の事を思い出しただけだ、問題ない」
「あ！いたーっ！兵長…ッじゃなくて、安藤さぁん！！」
理人さんが振り返った先に、栗色の髪の毛を揺らした大きな瞳の可愛らしい女性が駆けてきた。
「なんだ」
「良かった！会えた…もう、これ！忘れないでくださいよ、誕生日プレゼント！ちゃんと安藤さんに渡さないと、私がＣＡの子達に恨まれちゃいます！」
「そうか…すまない。ありがとな、美咲」
「いえ……え…もしかして…」
その女性が理人さんの肩越しに、私の姿を捉えると、驚きに目を見開いた。
そして、理人さんに視線を送り、目線を交えると何かを察して頷いた。
なに…？
「…あの、私、安藤さんと同じ航空会社で働いている、野々原美咲といいます。宜しくお願いします…えっと…」
『…芹澤あゆな…です。よろしくお願いします…』
何故、理人さんの同僚の方が私に挨拶をしたのかは分からないけれど、とりあえず私も流れで自己紹介をした。
それより…。
「安藤さん、間違いなく渡しましたからね！」
美咲さんはそう言うと、颯爽と去っていった。
元気で可愛い人だったな。
下の名前で呼んだりして…理人さんと仲良いのかな…。
少しモヤモヤしながら、それよりも凄く気になることを問いかけた。
『理人さん、お誕生日、なんですか？』
美咲さんが去ってもまた、イルミネーションを見てぼんやりしている理人さんに問いかけた。
私の声に、はっとして瞳にキラキラ光を纏いながら私を視界に捉えた理人さんは…、
「…まぁな…正確には明日…だが…」
消え入りそうな声量で答えた。
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作者名：夢梨 | 作成日時：2018年11月4日 15時
