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3 動き出した歯車 ページ3

気持ちのいい海の風。
身体全体で感じながら、波打ち際を歩く。

ある程度歩いたところで立ち止まり、水平線を眺めた。

今日は天気に恵まれ、どこまでも澄み渡った青空が、遠い先で海と繋がっているのを目視出来るほど。

数個浮かぶ朱色の浮きの向こうには、ヨットが何隻かゆらゆらと揺れていた。


『そろそろ帰ろう…』


不意に肌寒さを感じ、身震いをして呟いた。

その時…


「…ッユズア!?」


唐突に聴こえた、誰かを呼ぶ大きな声。

何故か強く心揺さぶる低くも良く通る声に反応し、視線を移した。

ふと目が合ったのは、サラサラの黒髪を海風に靡かせ、意思の強い光を宿した鋭い瞳の男の人。

私を見てる…?

どうしてか、その男の人は私を視界に捉えて、驚きと切なさと歓喜の入り雑じった表情をしていた。

何…誰…?
どこかで逢った…?


「ユズア…俺が分からねぇのか…」


私の方へ歩みを進めながら、瞳の鋭さからは想像できない穏やかな声音で問いかけられた。

えっと…

誰かと間違っているんじゃないかな…

私は「ユズア」じゃないし、目の前まで迫った彼の事も知らない。


『…あの…人違いです。私はユズアさんではありませんから』

「…チッ…記憶がねぇのか…」


男の人は小さな舌打ちをすると、辛そうに顔を歪めた。

記憶…何の事だろう…?


『…ごめんなさい…』


何故か咄嗟に謝罪の言葉が口をついて漏れた。

日本人の(さが)かな、これは。


「…すまない…知り合いに…良く似ていたんでな…」

『いえ、気になさらないでください』


微笑んで答えると、彼は少し視線を落とした。

そんな彼に…

出逢ったばかりの男の人に、何故か強く惹かれている自分に気がついた。


「…お前、そんな薄着で寒くねぇのか?そろそろ陽も暮れる。車で来ているから乗って行け」

『…え…』


何、言ってるんだろう。

当然のように誘われて戸惑った。

今逢ったばかりの男の人の車に乗るなんて、する訳ないのに。


『…あの…バスがありますから…』

「…!…あぁ、そうだな、すまない。…気をつけて帰れよ」


男の人は早々に(きびす)を返し、大きな歩幅でどんどん遠くなっていった。

その後ろ姿に、別の男の人の後ろ姿が重なる。

風に靡く緑のマント。

背中には、白と黒の片翼が重なったエンブレム。


『あれ…何で…?』


私、彼を知ってる…?


瞬間。

心臓を鷲掴みされた様な感覚に、胸を手の平で覆った。

ドクン…ドクン…と、大きく弾む心臓。


頬にくすぐったさを感じ、指で触ると…

熱のある雫が流れ落ちた…――



*

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設定タグ:リヴァイ , 進撃の巨人 , 恋愛   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:夢梨 | 作成日時:2018年11月4日 15時

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