急がば回れ ページ40
常に心の声が聞こえる、というのは存外楽しいもので、通学中も終業式中も、ちょっとしたおしゃべりに花を咲かせることができる。
おかげで式中に寝ることがなかったのを友人に驚かれたり、言ったと思ったら口に出していなかったみたいな食い違いを起こしたりもした。
そんなこんなで放課後である。
なるべく雑談をして服を作っていることを隠しつつ、居残れる時間いっぱいでなんとか数着完成させることができた。
だが、見回りをしていた先生に「お前らまだ残ってたのか！？」と言われるぐらいには遅い時間になっていたらしい。
運動部の声も聞こえないし、よくよく考えると完全下校の時間に流れる音楽もそこそこ前に聞いたような気がする。
友人と慌てて荷物を纏め、薄明の空の下、正門まで駆けていく。
友人は親に連絡していたらしく車の迎えが来ていたが、私は自転車通学だ。
「送っていくわよ」と心配そうな顔をする友人の母親に「お気遣いありがとうございます！」と笑顔で手を振り、私は自転車に乗り込む。
完成した服を早くプレゼントしたいという気持ちもあるが、それよりも花京院をかなり待たせてしまっているという事実が私を急かす。
早く帰らなきゃ。
下り坂もペダルを漕いで、猛スピードで走っていた。
......それがいけなかった。
慣れている道でも、暗いと視界も悪い。
そこそこ田舎のここらでは、街灯の数も少なく、夜には部分的とはいえ完全に闇に包まれる場所がある。
何が言いたいかというと、死角から出てきたヤバそうな人に自転車を押され、派手に地面を転げ、道路に投げ出されたのだ。
ゆっくり走っていればここまで勢いよく飛ぶこともなかっただろう。
盛大に左腕や左脚を擦りむき、ついでに自転車に絡まった足首あたりが嫌な悲鳴を上げている。
カバンは歩道に転がっているようだ。
冷静に分析しているが、この間約3秒。
痛みが主張を始める。
痛みを通り越して傷口が酷く熱く感じた。
声にならない叫びを上げながら、何やら笑い声を上げている集団を見やるも、暗くて様相はわからない。
「命中〜！」
......なんて、言っている辺り、走っている自転車に蹴りを入れるゲームでもしているのだろう。
その声が遠ざかっていくのを感じていると、少し向こうにヘッドライトの明かりが見えた。
この状態で乗用車に轢かれたら......死ぬ、かもしれない。
嫌だ。
こんな所で、死ねない。
力の入らない腕で必死に自転車から抜け出す。
......が、もう遅い。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 134人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アーディ(プロフ) - Fukuminさん» コメントありがとうございます！そう言っていただけると嬉しいです。まだ完結出来ていないので更新頑張りますね！ (11月20日 0時) (
レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
Fukumin(プロフ) - 初コメ失礼します。いや本当に素敵です。好きです(( 主人公ちゃんと花京院との相性は最高に良きです。最高ですありがとうございます!! (11月20日 0時) (レス) @page6 id: 4c4c4d178d (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - くろねこ1227さん» いつもコメントありがとうございます。お陰様で50話埋まりましたので、続きが書け次第続編へ移行させていただきます。小ささ故に守れないもどかしさで花京院は苦しみそうな予感……のんびりお待ちください〜 (2023年1月18日 0時) (レス) @page50 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
くろねこ1227(プロフ) - 夢主ちゃんの健気さと花京院のカッコよさにきゅんとしてしまいます。冬に夏のお話も乙なものですね。更新楽しみにしています。 (2023年1月18日 0時) (レス) @page49 id: 798df1e4bf (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - 更新が遅すぎて冬場に夏の話をしています、作者です。小説内の暑さと現実の寒さをいい感じに合わせて暖を取っていただければと思います(？)もう少しで50話なのでがんばりたいですね。皆様風邪など召されませんよう。 (2023年1月14日 9時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：奇妙な前髪 | 作成日時：2018年7月8日 20時
