発散 ページ5
……やってしまった。
何か悲しい事があったのか、目に涙をためて震えた声で接客する彼女を見て、昂りすぎたのだ。
気付けば、彼女によく似た手の持ち主を、切り取って
自分の衝動を制御出来ない程、わたしは彼女を求めていたのだろうか。
Aさんに似た彼女の手の甲をそっと撫でる。
彼女の手ではなくても、似ている手であればひとまず欲求を満たす事は出来そうだったが、どこかAさんに対する後ろめたさもあった。
浮気と言えばそうなるのかもしれないが、まだ本人に気持ちをぶつける気概はないのだから仕方がない。
それならやはり爆破せずにまだ取っておくべきだと思うが、彼女を連れたままAさんに会うのはどうしても避けたかった。
わたしが誰でもいい男だと思われたく無かったからだ。
(……駄目だ、苦しい)
思わず強く握り締めたせいで、彼女の手のひらから血が滴る。
死人の手というものは冷たく硬いが、生命活動を感じさせない分、わたしの気持ちも幾らかは和らぐような気がした。
(悪いね……もう少しだけ我慢していてくれ……)
まだ生きている名前も知らない彼女に謝る。
切り取る以外の愛情表現を確立したなら、その時は。
事を済ませ、似ているだけの彼女と手を切る。
これで多少なりとも衝動は抑えられるだろう。
代わりに気持ちが余計積もった気がするが、いずれ来るAさんとの未来の為には必要な感情だ。
将来のためにも、彼女とは少しずつ仲を深めていかねばなるまい。
手始めにプレゼントでもしてみようか。
(喜んでくれるといいが……)
そんな事を考えながら小洒落た店で菓子を買い、ラッピングしてもらう。
もうすぐ彼女の顔が見れると思うと、どうしようもなく胸が高鳴った。
「いらっしゃいませ〜!あっ」
「やぁ、こんばんは」
「いつもありがとうございます!商品のお預かり致しますね!」
私が来店する日を心待ちにしてくれているのか、彼女は私がレジに来るとそれは嬉しそうに笑った。
「そうだ……これ、良かったら君に。いつもお世話になっているからね」
「へっ?私に、ですか……?あ、ありがとうございます……」
彼女が少しでも喜んでくれるといいと思い、彼女の好きそうな物を選んだつもりだが、果たして喜んでくれているだろうか。
ふと心配になって彼女の顔を盗み見ると、彼女は顔を真っ赤にして俯き、噛み締めるように少し微笑んだ。
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アーディ(プロフ) - 餡さん» コメントありがとうございます!本当はもっと短く纏めるつもりだったので、間に合うか間に合わないかの瀬戸際でヒヤヒヤしながら書いておりました。吉良さんの魅力が伝わっているなら何よりです。最高の褒め言葉ありがとうございます!読破お疲れ様でした! (1月31日 13時) (レス) @page42 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
餡(プロフ) - 完結おめでとうございます。まさか吉良さんの誕生日に合わせて執筆されていただなんて…!細密な描写が色んな視点で描かれていて、とても面白かったです。本当に吉良吉影という人物の魅力がたくさん詰まった作品だと思います。素敵な物語をありがとうございました…! (1月31日 8時) (レス) @page42 id: 493b9f8f47 (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - ゆーりさん» くそっ……じれってーな。俺ちょっと2人を進展させてきます……!(コメントありがとうございます!作者的にももどかしいです!!!) (1月26日 22時) (レス) id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーり(プロフ) - あー!!!もどかしい!ドキドキしますね…!!! (1月26日 16時) (レス) @page32 id: bb43593a3a (このIDを非表示/違反報告)
アーディ(プロフ) - のんさん» ありがとうございます、先はまだちょっと悩んでますが、更新頑張りますね! (1月11日 21時) (レス) @page9 id: 0218ed2c56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奇妙な前髪 | 作成日時:2024年1月8日 23時