泡沫夢幻 -弐-【わたどう】

■66 ページ21

**

Tsubaki Side









多喜川さんの紹介で、
百貨店の七夕フェアに出品することになったのだが、

そこの顔合わせで、“しまや” という和菓子屋の話を聞いた。





どうやらそこは一昨年の四越デパートの催事で
わらび餅を出品しており、

多喜川さんも大層お気に入りのようだったが、
もう既に潰れているのだという。








.









……そういえば、“しまや” って、どこかで…。







.








聞き覚えのある名前に、記憶を辿っていけば…、









.









“実家が和菓子屋なんです、
しまやっていう能登にある小さなお店なんですけど…”








……ああ、そうだ。
少し前に、Aと城島が話しているのを聞いたんだ。








.









多喜川さんにお願いして、
その店の詳しい情報を調べてもらえば、

やはりそこは城島裕介の実家だった。








.









.









城島の母親が入院中だというので、お見舞いに行ってみると、
…そこで思わぬ話を聞いた。








.









一昨年、経営が傾き借金に苦しんでいたしまやは、

四越デパートの催事に出店が決まり、
最後のチャンスだと家族3人で必死に準備をしていた。



しかし当日、きちんと積んでおいたはずのわらび餅が
何者かに荒らされ、中身が床に散乱していた。






.







…どうやらあいつは、
それを、俺の仕業だと思っているようだ。





結局、催事でわらび餅を売ることができず、
起死回生のチャンスを失ったしまやは、

借金を返す目処も立たず、亭主も病で倒れ帰らぬ人に。









.









……なるほど。

あいつが妙に俺に突っかかってくる謎がようやく解けた。




Aによくちょっかいを出しているのも、
彼女が俺の婚約者だからだろう。









**

□67→←□65

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す