第陸幕 彼女の嗜好 ページ7
瑠奈side
「そんなことないよ、キミ達のだって……」
トレーに目を向けて、さっと視線をそらした。そっと静かに深呼吸。すー、はー。もう一度目を向ける。視界は良好、見えるものは先程と何ら変わりない。
「キミ達の方が上手じゃないか？」
「えへへ、そうですか？」
びっくりした。少し不揃いなおにぎりの中に、塩がたっぷりまぶされていて、酢の色が見えるくらいのものが混ざっていたものだから。
「……」
何も、言うことはしないけど。当たった人がどんな反応するのかも気になるしね。黙って食べきるのか、吐くのか…怒るのか。
罰ゲームみたいだな、これ。どんな味がするのか、ちょっと気になるんだけど、自分だとわからないから人に食べさせて感想を聞くしかできない。
「そろそろみんなを集めるわ」
「わかりました、おにぎりは作り終わってますよ！」
「そう、ありがとう。じゃあ──」
ピーー！ ホイッスルの音が森中に響く。……一声欲しかったな。耳が痛い。頭の中がキンキンする。
「監督……」
「何かしら」
「次それやるとき、声かけてください……」
「大きな音は苦手なのね。休んでいてもいいわ」
パチパチ、と、マネージャー三人が目を瞬いた。監督を凝視している。
「どうか、した？」
「い、いえ……」
どこか煮えきらない態度だけど、なにか思うことでもあるのだろうか。
「まあ……お言葉に甘えて、少し休ませてもらうよ」
と、キャラバンに乗り込む。そして、少しカーテンを開け、外を観察する。
「おいしそ〜！」
「こら！ 手を洗ってきな──」
「「「はい！」」」
「──よろしい」
ふふ、元気だなあ。さて、これからどう顔が変わるんだろうか。彼女が作ったものを食べるのは、誰だろう。
「──っむぐ！」
「大丈夫？ そんなに急ぐから……はい、お水」
「んんっ……サンキュ」
ああ、可哀想に。口先だけの言葉を発すと、口角が上がる。あんな酷い顔をする味って、どんな味だろう。食べたところで分かりやしないけど。
食べたいなあ。でも、頭痛いしなあ。食べても、わかんないしなあ。あじ。すっぱいもの、しょっぱいもの、からいもの、いっぱいいっぱいたべたいなあ。
あまいものいがいも、たべたいなあ。
しまった。お腹が空いているわけじゃ、ないんだけどなあ。
「篠宮さん、大丈夫？ 食べられたら食べてね」
「うん、ありがとう」
差し入れられたおにぎりは、やっぱり味がしなかった。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
