第伍幕 彼女の思い ページ6
瑠奈side
「……いいよ」
断るつもりだった。だって、と引き受けたってなんにもいいことがないから。でも、口は正反対の答えを口にしていて。
ああそうか、あの子に似ているから。ほっと緊張を解いたその顔も、無理やり引き締められた表情も、いーちゃんにそっくりだから。
彼女の頼みなら、聞いてやりたい、って思ったんだ。別人なのに。いーちゃんはもう居ないのに、情けない。
代わりにしないように、距離を置こう。自分が心から人を信じられるとは思っていない。でも、傷付けたくない。力になってやりたい。
私も甘くなったものだ。
「ははは……まあ、これもまた一興、ってね。これからよろしく頼むよ、イナズマキャラバンの皆々様？」
「……ああ！ よろしく、瑠奈」
真っ先に割り切ったのは、意外にも円堂守。ただ、Aとやらを諦めたわけではなさそうだ。取り戻そうとか思ってるんだろう、面倒臭いな。
「こちらこそ、キャプテン様」
伸ばされた手を笑いながら取る。少し怪訝そうな顔をされる。いいじゃないか、私と其奴の違いを見せつけてやる。
「次は、北海道に行くわ」
次の目的地を告げられ、物思う暇もなく連れて行かれた。着替えなんて持っていないと言えば、道中でポイポイと押し付けられた。
買い与えられてしまった。仕方がない、服の恩も増えてしまったことだし、少しは歩み寄ろうじゃないか。そして、いいチャンスだ。失望してくれ。切り捨ててくれ。無い者と扱ってほしいのだから。
お前のことはこんな仰々しく呼んでなんかいなかっただろう。お前たちにこんな挑発的な顔はしなかっただろう。冷えた視線で睨めつけるような真似、しなかっただろう？
森で自主練習をしろ、と言われても、私に知識はないわけで。仕方がないからマネージャーに付き合って、おにぎりをひたすら握っていた。
「篠宮さんのおにぎり、きれいな形ね」
「ん？ そうかな、普通だと思うけど」
「上手ですよ！ 全部同じ大きさで同じ形！ 経験あるんですか？」
「んー……まあ、炊き出しとか、やってたから……？」
あまり、昔の話はしたくないんだけど。だって嫌じゃないか、一方的に知られるばかりだなんて。
「炊き出し？ 地域活動みたいなもの？」
「そんなとこかな。正月のどんど焼きとか、そういうの想像してくれたら」
「おっきなお鍋で豚汁煮たり？」
「したねぇ。昔のことだけど」
ベテランじゃないですかー、と、音無が笑った。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
