第拾捌幕 彼女の無力 ページ19
瑠奈side
「……」
さらり、誰かが髪を梳いた。瞼が重くて、全然開かない。ぺたりと頬に手が添えられた。
「ごめんね、ごめんね、痛いよね、苦しいよね、酷いことしてごめんね」
「い、あ……？」
「っごめんね瑠奈、無理やり交代しちゃったから、しんどかったよね」
「ん、な、で？」
参ったな、舌さえ満足に動かせない。依愛は黙ってボクの髪を梳いている。撫でて、じゃなくて、なんで、だったんだけどな。しかも微妙に撫でてるんだが撫でてないんだか……。
まあ、いいか。
「……こうするしか、なかったんだ」
「私って、そんなに出来が良くないからさ」
「だから、これしか思いつかなくて」
「許さなくていいよ。許さないでいて。私を、忘れないでね」
ねぇ、どうしたの。なんでそんなに悲しそうな声をしているの。一体、何を抱え込んでいるの。瞼も上がらないような、こんな弱った体じゃ何も出来ない。
「なんて、瑠奈に言っても、意味無いよね。ちゃんと私で、私の口で、璃亞ちゃんに言わなきゃ」
瞼が開く気配はない。別の場所ならどうだろう。指先がほんの少しだけ。腕全体は力が入らない。足も、同じような状態。
「大丈夫だよ、瑠奈が心配するようなこと、何にも起こさないから。うん、そう、起こさない。起こさせない。一旦お別れはするけど、その後はみんなが、幸せになれるから」
ああ、これは、ダメだ。彼女は返答を求めていない。ただ吐き出したかっただけだ。そして、ボクが起きていようが起きていまいが関係なしに、この話をするつもりだった。
ボクには止められない。彼女は止まらない。
それがどうにもやるせなくて、悔しくて、舌を必死に動かした。無駄だとわかっていても、止めないなんて出来なかった。
「ね、やめよ。そんな、つらいおもいすることない。おしえて、たよって。ぼくら、へいきだから」
「……そんなのダメだよ。出来ない。みんな潰されちゃう」
「なんで？ ぼくら、よわくないよ」
「みんなは、強いよ。でも、優しすぎる。身内に裏切られたら敵になれない。だからダメ」
「そんなこと、ないよ」
「っ、あるんだよ！ お願い、黙って体を譲って。今だけでいいから、寝ててよ。私、みんなのこと大好きだよ。だから、誰にも欠けて欲しくないの」
それは、誰のこと。悲痛な叫び声に、かける言葉が見つからなかった。
「もう、二度と、璃亞ちゃんは殺させない。だから、お願い、黙ってて」
え。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2018年11月3日 19時
