第拾幕 彼女の苦しさ ページ11
瑠奈side
雪が降り積る冬の北海道。目の前には雪を丸めて投げてぶつけ合うという正気とは思えない遊びをする円堂守と、その仲間たち。階段でのやり取りを見ていたか、円堂守の絶叫を聞いていたんだろう。チラチラと視線を向けられる。
ぶるり、と一度身震いする。この温度は寒すぎて、さっきから寒くて寒くて堪らない。
風丸一郎太が此方に気付き、手を伸ばしかけて、やめた。なにかしら、思うところがあったんだろう。ああ、でも。こんな風に、悲しそうな顔をさせたい訳じゃ、ないんだよな。
私がやっていることは、彼らを傷付けることだ。自分を認めろと足掻くことは、彼らの中の宇生賀谷Aを殺すことだ。
せめて、私が彼のことを知っていたのなら。そう振る舞うことも、出来たかもしれない。でも、私が知る彼は試合の最中の彼だけで、とてもじゃないが再現なんて出来そうにない。
幼い子供のように笑い、泣き、コートの中を駆け回る少年。姿形は鏡にうつしたようにそっくりなのに、その言動が、温度が、違う。
ああ、ダメだ。最初は、彼らに違いを思い知らせてやろうと思っていたのに。宇生賀谷Aが、彼らに大切にされる彼が、羨ましい。
そして何より。彼が受け取るはずだった思いを、愛情を、関係の無い私がうばってしまったことが、心苦しい。
「あの、篠宮……」
「……」
「篠宮? あの、ごめんな、困らせたいわけじゃないんだ。ただ、まだ気持ちの整理がついて無くて。って、言い訳したい訳じゃないんだけど、その……」
ぐらり、と視界が揺らぐ。くらくらする。頭の中に氷を入れられたみたいに、冷たくて、痛い。眩暈がする。
「大丈夫か!?」
「うるさい、平気。私は校舎に戻るから、監督に伝えておいて」
「そんな状態であの階段登る気か!?」
「だから、構わなくていいってば!」
掴まれた腕を振り払ったつもりが、風丸一郎太は離さない。眉を下げて、いかにも心配です、と言った顔をしたままだ。それは、宇生賀谷Aのものだ。
「さっきも足滑らせてただろ? 俺も一緒に行く」
「だから、そういうのは全部宇生賀谷にやりなよ! なんで私にやるんだよ!」
「っ……」
ギッと睨み付ければ、風丸一郎太は悲壮な顔をして一瞬たじろぐ。その隙に、今度こそ腕を振り払い、追いつかれないように駆け出した。
ふらふらする。くらくらする。頭が痛い。体が重い。傷つけちゃった。勝手に拗ねて、謝れない自分が、誰より嫌いだ。
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作者名:海道 凛 | 作成日時:2018年11月3日 19時