world６０ マーブルキャンバス ページ14
あげはside
突然だが、俺は孤児だ。両親には愛されていた。母は不器用ながらも真っ直ぐに愛情を伝えてくれたし、父も俺に優しかった。悪いことなんて考えることもしなさそうな両親だった。それでも、現実は残酷だった。病で家を離れ医師の親戚のところに行った妹も、優しい両親も、現実は奪い去った。
何度も、何度も、親しい人が奪われた。その内誰も俺には近づかなくなって、いつの間にか独りになっていた。
一緒に遊ぼう、と言ってくれた少女も、手を差し伸べてくれた青年も、最後には離れていってしまった。
久しぶりに手を差し出したの二人は、居なくなってしまったはずの母さんと妹にそっくりだった。
今度こそ、ずっと一緒ににいてくれるかもしれない。俺は疫病神じゃないのかもしれない。普通に、この二人と暮らせるのかもしれない。
嬉しかった。楽しかった。一緒に過ごせば過ごす程二人は母さんと妹に似ていて、同じところがたくさんあった。ユズに“あ〜ちゃん”と呼ばれたときは、泣いてしまうほどだった。
大好きな姉さんと、ユズと、一緒に過ごせた。和裁に打ち込めた。洋裁も教えてもらった。家事全般、そして処世術も身につけた。姉さんは、“ユズを守って生きられるように”と言っていた。俺は笑顔を返した。
もしかしたら、姉さんとユズは母さんと妹の生まれ変わりなのかもしれない。もしかしたら、遠いところで生き延びた二人なのかもしれない。どんどん混ざっていった。
何もかも億劫になったときは、決まってミシンに向かった。浮かんだものを気分のままに縫い合わせていくと、楽しかったから。小物でも、作れば母さんは褒めてくれたから。
悲しいときは、一日中机に向かっていた。思い出を思い起こして、本だったら擦り切れるくらい何度もなぞった。
部屋に入ってきた姉さんは、沢山のトルソーにかけられた服を褒めてくれた。俺が作ったのだと、わかってくれた。母さんに褒められたときとおんなじ言葉と口調で、優しく褒めてくれた。“作り過ぎは良くないけど、とっても綺麗だね”ってにこにこ笑っていた。
ユズとは、何度も意見がぶつかった。妹と何度も何度も繰り返したように、服のデザインで。妹は何をどうしても折れなくて、徐々に妥協させるしかなかった。ユズも、同じだった。
神様が二人と逢わせてくれたんだろう。今度は守れるように、と。嗚呼、嗚呼。“前回”は惨かった。もうあんな思いはしたくない。
今度こそ、とぐちゃぐちゃのキャンバスを隠した。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
