world５８ キョウダイの密会、慟哭 ページ12
柚葉side
“瑠奈さんが透けている”。彼女の様子がおかしいことに気が付いたのは、ついこの間再会したときのこと。中国との対戦が終わったあと、瑠奈さんは客席にいたらしい照美さんと合流していた。
抱き着いていたから邪魔をしたと思ってその場から去ろうとした。でも、出来なかった。彼女が、泣いていたから。“痛い”“苦しい”“もう何もしたくない”。いつもなら出て来ないような彼女の弱音が、廊下に反響していたから。
足に力が入らないのか、床に座り込んだ彼女を照美さんは抱き締めて、暫く背中や頭を撫でていた。
ふと足に視線を向けたとき。膝から下が、見えなかった。次の瞬間、一瞬彼女が消えたように見えた。“彼女は確かに存在しているはずだった”。そこに、いた筈だった。目を擦ってみたからなのか、それ以来起きていないのか、彼女が消えるところはそれ以来見ていない。
「んー……あ〜ちゃんどう思う？」
「なんで俺に振った？」
「えー……だって、一番一緒にいるでしょ？」
あ〜ちゃんは少し俯いて考えるような素振りをしたあと、私の目を真っ直ぐ見て言った。
「それをあの人が隠したいのなら、もっと上手くやってるはずだ。なら、それが出来ないほど追い詰められている、って考えるのが妥当だろ。無理やり暴いたら突き放されるのがオチだし、俺達には静かに見てるくらいしかできないだろ」
息が詰まった。瑠奈さんが苦しんでいても、ただ指を咥えて見ているしかない状況に。突き放されるのは嫌だ。じゃあ、私には何も出来ない？
「……姉さんは、本格的に危なくなってきたら絶対に言わない。だから、そうなる前に気付かなくちゃいけない。気づかせなくちゃいけない。本人自身、それに気付いてない節もあるから」
あ〜ちゃんは、諦めたように笑った。あ〜ちゃんは一人で、ずっと待っていた。私は着いてきちゃったけど、あ〜ちゃんは。
「……あとさ、姉さんの呼び方。ちょっとぎこちなさが残ってるぞ。そりゃ、呼び方を変えなくちゃいけないから難しいのはわかるけど、でも勘のいいやつに本当の関係性バレても厄介だろ？」
「私にとっては姉じゃないんだよ。……そうじゃないの。なのにさぁ、また一人で突っ走って、また置いて行かれるかと思うと怖くて」
「姉さんの努力を、水の泡にしちゃいけない。それはお前も分かってるだろ。俺は抑え込んだ。お前はできるか？」
「できなくても、やらなきゃいけない。そうでしょ？」
あ〜ちゃんは神妙な顔で頷いた。
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作者名：海道 凛 | 作成日時：2020年2月3日 21時
