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「グルゥゥウウ……」

まるで野犬のような、低いうなり声。
そして。

「――っ!」

黒い塊が私めがけて飛んできた。

「A!」

青蘭が私のほうに振り向く気配。

「青っ! ともかくよけて!!」

私は黒い霧の向こうにいるはずの彼に向かって叫ぶ。
同時に。
扇を一振り。
目の前の空間を薙ぐ。
すると。

――ぶわんっ!

大きな風の塊が生まれて、黒い塊めがけて飛んでいく。

「グルァアアアア!!」

元天狗であった黒い霧が悲鳴を上げる。
霧がよじれた。

「こいつっ!」

とんっ! と、青蘭が地面を蹴る音。
空高く飛び上がった青蘭の背後に、管狐の証であるふさふさの尻尾が揺れるのが見えた。
彼の髪と同じ色をしたその尻尾の毛が、警戒して逆立っている。
そのまま。
右手を掲げて歪な黒い塊の上に落下してきた。
その手に、いつの間にか……、鍬のような鋭くて長い爪が生えている。
霧の真上まで来たところで、彼は凶器と化した爪を振り下ろした。

「グアアアアアアアアア!!!!!!!!」

聞いているほうが胸が痛くなる、悲しい叫びが大気を揺らす。
そして、黒い塊は散り散りに千切れて、辺りに飛び散る。
後には、私の片手に収まるくらい、仄かに淡く白い光を放つ小さな玉だけが残った。

宙に浮かんだそれにそっと手を伸ばす。
光の玉は、私の掌の上で、そっと震えた。

「無事か!?」

青蘭が私のそばに飛んでくる。

「うん。青のお蔭で、私は無傷だよ……」

でも。

私は、小さな白い玉に目を落とす。

「魄(はく)……。まだ若いな」

「うん」

魄と呼ばれた白い玉は、人間でいうところの魂。
神様方や妖が生まれる際、核となる自然の気の塊だった。
若ければ若いほど、それは小さくて。輝きも薄い。だから、負の気にも飲まれやすい……この七年間で学んだことの一つ。

「助けられなかった……」

「仕方ないだろ。魍魎となっちまったら、俺らじゃどうすることもできない」

「……でも!」

神通力は浄化の力もあるという。

「私の力がもっと強かったら……」

人の暗い心に飲まれた若い天狗を助けられたかもしれない。……そう思ったら、声が滲んだ。

「……」

青蘭が少し困ったように、息を吐く。
すると。


「それは違うぞ」

背後から、私の大好きな人の声がした。

▼→←一五章『不穏の足音』



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

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