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ゆらり。


ゆっくりと。
ゆっくりと。
赤く染まった狐は地面に伏した。

「――青蘭!!」

私は絶叫を上げて。
髪を振り乱して、その体に駆け寄った。
そんなに遠くない距離なのに。
距離を感じた。

やっと駆け寄った彼の体は。
もう大きな神様の姿じゃなくて。
彼本来の、小さな狐の姿だった。

(――やっぱ、俺、人間嫌いだ)

ゴポリ。

どす黒い血を吐き出しながら。
ぐったりした青蘭の意識が伝わってきた。

(でも、お前は少し好きだった……)

もう声にならない声。
心のつぶやきすらも、微かなもの。


私はその小さな体をそっと抱き上げた。
小さいのに重い。
だらんと、舌を出して。――体の力が一切入っていない青蘭。
そこに、もう命は感じなかった。

……守り役として、ずっと私のそばにいてくれた。
もう、ぴくりとも動かない、私の家族。
意地悪いことも言われたけれど。
私も憎まれ口を叩けた。
一緒に出掛けて、野をかけて笑って。……そんな幼馴染で、友だちだった青蘭。


私はその死を前にして。
ただ、ただ。
茫然としていた。


でも。
私が自分が悲しいことを理解できるまで、兵士は待ってなんてくれなかった。
弓矢が切れたら。――剣がある。
人は容赦なく部屋に侵入してきて。
怖い顔で武器を構えて。……階段を昇ってきた。


「――A!」


どこか遠くで。
大鵬が私の名前を叫んでいた。
けれど。
その声すらも。
大切な家族を目の前で失って、放心した私の耳には。……どこか遠くで響いているように聞こえた。

ただ。
迫りくる兵士の気配を感じた。

(……お願い。これ以上、私の心を乱さないで)

私はただ、茫然と願った。
そんな私の目の前に兵士が近づく。
振り上げられた剣。
それでも動かない私の前に、大鵬が滑り込むようにして立つのが見えた。

私を庇うようにして。
大鵬は私を抱きしめて。
押し倒すように、床に伏せる。
力強い腕。
広くて分厚い胸板。……温かい。
私がこの世で一番好きな温もり。
その背に、ギラリと冷たく光る刃が振り下ろされるのが見えた。

その瞬間。



「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



私は叫んだ。
ただ、大声で。

頭は空っぽだった。
でも、大鵬を失いたくなかった。

そして。――家族を殺された憎しみがやっとその時。
私の心に広がるのを感じた。

二一章『暴走と真名』→←▼



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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - 零玲飛(れいれと)さん» コメント有り難うございます。そう仰っていただけ、非常に嬉しいです。ここまで目を通してくださったことに感謝します!! 本当にありがとうございます。 (2015年1月28日 21時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
零玲飛(れいれと)(プロフ) - 感動して泣くかと思った。お疲れ様です。 (2015年1月22日 20時) (レス) id: 0bd3908221 (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂さん» ありがとうございます。……誤字量の多さが(-_-;) しっかり読んでくださり感謝します。また、後日直します。そして、番外編の件……有り難うございます! おそらくひと月以上開けて、とか忘れたころになるかと思いますが、宜しければ、お願いいたします(多謝) (2015年1月15日 22時) (レス) id: c6c51ef31b (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - (続きです) 43話目の下から9行目 「まずはこのの人の」→「まずはこの人の」 だと思います! 一応番外編までは確認しようと考えておりますが、もし本編のみで良ければ返信くださると助かります。あ、遠慮はなさらないでくださいね。 (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)
光珂(プロフ) - 深夜にすみません。 37話目の下から16行目 「それだだけ」→「それだけ」。 40話目の13行目 「私をの力を」→「私の力を」。 同じく下から8行目 「温かな光のなで」→「温かな光の中で」。 41話目の9行目 「大鵬のい気配」→「大鵬の(いる)気配」。 (続きます) (2015年1月4日 2時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年8月31日 10時

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