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三章『呼び名』 ページ13

「で、花嫁殿の名前は何と言うのだ?」

「あ……」

床に降ろした私に向け、さっそく大鵬が質問してきた。
そこで。
私は朱姫様との約束を思い出した。

――『雨乞いも良いが、その前にお主は大鵬殿に名をねだるのがよかろう』。

私には名乗る名前がないのだ。

「えっと……」

名前をねだるといっても、どうしたものか。
私は返答に困った。
すると。ふーー、と朱姫様が溜息をつく気配。

「その娘は『花嫁様』以外の呼ばれ方を持たぬそうだ」

どうやら、助け船を出してくれたらしい。

「はい……あ、いえ、うん。私には名前がないんで……あー、いえ、ないの」

突然敬語を抜くのはどうにも疲れる。
しどろもどろに応えた。

「……どういうことだ?」

「みんな、私を「花嫁様」としか呼ばなかったから。……でも、それは名前じゃないって、朱姫様は仰いました」

「……」

大鵬が、朱姫様の顔を見た。

「事実であるぞ。あの翁は、ひ孫に名前すら与えなかったらしい」

「……なるほど、そういうことか」

「おや、大鵬殿には花嫁殿に名前がないことは想定の範囲であったか?」

「もしや、とは思っておったからな」

また、二人で私の分からない話を始める。

「名には命が宿る。それ故、我も真名(まな)は明かさぬ。……朱ノ姫も然りであろう?」

「……ふむ。確かにそうではあるな。わらわは大鵬殿の真名を知らぬ」

「自然に近しい我らは、真名を明かせば、その者に操られる可能性があるからな」

「ふむ。……であったとしても、花嫁殿はわらわ達とはちごうて、人間であるぞ?」

「確かにそうだ。だが、花嫁に選ばれる娘となれば、神通力を持つ……」

「なるほどのう! そういうことであったか」

朱姫様が納得したと右手で拳を作り、左の掌を打った。
なにか「そういうこと」なのか……、私はさっぱり分からず、二人の神様の話しの行く末を見守るしかできなかったけど。

「そうだ。力が強ければ強いほど、その娘は我らに近しい存在になる。安易に名を与えれば、下等な妖に利用されかねないからな」

「ふん。あの老いぼれなりに、曾孫の娘を思うて名を与えなかったと? じゃが……この娘、そこまで強い力を持つとは思えぬが」

「……えっと……」

じーっと、朱姫様に顔を覗きこまれた。
やっぱり美人。……迫力がある。
でも、会話の内容がまったく掴めていなかったから、なんて返したらいいのか分からず、私は目を泳がせてしまった。
すると。

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設定タグ:和風ファンタジー , 妖怪 , 羅刹   
作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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一花(プロフ) - Nonさん» (続)しかし、物語にのめり込める……そう仰っていただけ嬉しいです。ありがとうございます。国語力は……常に平均レベルでした(汗) 夢想力は多少あるかもしれません(笑) Nonさんこそ、とても誉め上手です。沢山、嬉しい言葉をくださり、ありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - Nonさん» ありがとうございます。後編もなるべく楽しんでいただけるよう、精進いたしますね。少し間が空きますが、公開時は宜しくお願い申し上げます! それから、文章……お褒め頂き有ありがとうございます。力があるかは私自身は判断を読者様に委ねるしかできません(続く) (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
一花(プロフ) - 光珂.さん» ありがとうございます! ボード、確認いたしました。本当にありがとうございます! レスさせていただきましたので、またご覧下さると幸いです。本当にありがとうございます! (2014年8月30日 23時) (レス) id: efaaeba1ca (このIDを非表示/違反報告)
Non - どうも、またNonです。後編すごく楽しみにしてます!一花様はほんと文章力が凄くあると思います。国語とかは得意なほうでしょうか?凄く物語にのめり込めるので大好きです!あと、誉めるのもとても上手いですよね! (2014年8月26日 6時) (レス) id: 240a63bd27 (このIDを非表示/違反報告)
光珂.(プロフ) - こんにちは。 前編完結、おめでとうございます!  誤字脱字のチェックをしたのですが、諸事情でボードの方に書かせて頂きました。 お時間のある時に確認お願い致します。 (2014年8月25日 16時) (レス) id: 21af548d66 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一花 | 作成日時:2014年7月22日 22時

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