彼の描いた計算式/eml ページ9
「フラれました。」
ノックもせずに開け放った扉の先で、その長身を確認してから簡潔に用件を伝えた。
突然の私の言葉に顔色一つ変えず、いつもの薄っすらと浮かべた微笑みのままエーミール教授は傍らの椅子を引く。
私が椅子に腰掛けると、すっと目の前に差し出される紅茶。
まるで私がここに来る事が分かっていたみたい、完璧に計算されたそれを口に含めばやはり私好みの砂糖一つ分の甘さが広がった。
「今回の敗因はなんでしょう？」
「女らしさをはき違えました。」
「ふむ、具体的には？」
「家庭的な女が好きだと聞いたので世話を焼きすぎました。母親みたいだそうです、彼が求めていたのはあくまで家庭的な”女”であって、所帯臭さを出してはいけなかった。」
「では改善点は？」
「今度から作る料理は煮物じゃなくてパスタにします。昔の歌でパスタ作ってくれたから惚れたみたいな事言ってたので参考にしますわ。」
けっ、と顔を歪めて吐き捨てるように言うと教授はふふっと笑った。
失恋したての殺伐とした心の女を笑うなんていい度胸じゃないか、一発ぶん殴ってやろうかな。
「Aさんは強いですね、フラれてもいつも涙一つ流さない。」
「強がってるだけで心の中でめちゃくちゃ泣いてますよ。」
「おや、それは失礼。私の胸でよければお貸し致しますよ？」
「胸を貸してくれるなら泣き場所ではなくサンドバッグとして貸してもらえませんかね？」
「それは勘弁してもらいたい、あなたの拳は痛そうだ。」
肩の横に手を上げて参りましたのポーズをとる教授に、ふんと鼻を鳴らす。
フラれるたびにここを訪れるのはもはや恒例。
ズラリと並ぶ本、静かな空間に微笑むエーミール教授。
この部屋の中だけ時間の流れが違うみたいにゆったりとした空気を感じる、その安心感を求めて私はここに来てしまう。
「あなたは今までたくさんの事を学びましたね。」
「そうですね、主に失敗から。」
「そろそろ学習するべきでは？」
「というと？」
訝しげに見る私に、エーミール教授はそっと腰を折る。
紅茶を持つ私の手にエーミール教授の手が重なる。
カップの中の紅茶が揺れる。
「あなたに相応しいのは私以外いない。」
一体どこまで計算されているのか。
その微笑みも手の中の紅茶も、私がフラれるたびにここを訪れるようになったのも。
全てが彼の描いた計算式の上で成り立っているのなら。
あとは彼の導いた答えを証明するだけ。
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ことこ(ドS娘)(プロフ) - だいぶ前の小説にコメント失礼します。あなた様のエミさんの認識はどうなってるんですか…変態ですか……好きです｡｡｡｡｡｡｡ (2020年12月2日 22時) (
レス) id: 5e03690c33 (このIDを非表示/違反報告)
生真面目な炊飯器(プロフ) - あ、良かったーびっくりしたゾ（笑）というか見てますよ…！もう光の速さで短編集3へ飛んでったンゴ！そして幸せになりました(小並感) (2017年11月19日 9時) (レス) id: b04e9ddf40 (このIDを非表示/違反報告)
ひとちん(プロフ) - 生真面目な炊飯器さん» 垢間違えてました(笑)短編集３もできましたのでぜひ見て頂けると嬉しいですー！ (2017年11月19日 1時) (レス) id: 5e55a572da (このIDを非表示/違反報告)
生真面目な炊飯器(プロフ) - 短編2までお疲れ様でした♪次は3ですか！楽しみだー（*＾＾*)心ぐるぐるっ待ち♪してます（笑）いつも素敵なお話ありがとうございます！ (2017年11月18日 6時) (レス) id: b04e9ddf40 (このIDを非表示/違反報告)
ひとちん(プロフ) - ひらめさん» ひらめさんコメントありがとうございます！そして今まで気付いてなくてすみませんでした！(笑)シッマは難しいんですがコネシマスター達の為にもっと書けるように精進します！！今後も仲良くしてくださいね！！ (2017年11月15日 19時) (レス) id: 5e55a572da (このIDを非表示/違反報告)
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