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お礼を言ったきり何も言わない私に、王子は緊張してるのかと思ったらしい。
そんなに固くならないで下さい、と笑われた。

確かに緊張はしてるものの、本当の理由はそうじゃない。
どうすればいいのか分からないのだ。
私自身が彼やアスタムに何か恨みがあるわけではない、ここで彼を拒絶する事はおかしい事だ。
だけど彼は、彼の国は、グルッペンの敵なのだ。
友達の友達は友達なんて言われるように、恋人の敵は敵なのではないかと思ってしまうからだ。

「一度あなたを我が国へお招きしたいと思っているのですが。」

突如王子に掛けられた言葉に顔を上げる。
なぜ、ただの菓子売りの女を自国に招くなんて言うのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたのか王子はにこりと笑って言葉を続ける。

「僕ねAさんの作るお菓子大好きなんですよ。毎日食べたいんです。」
「お褒めの言葉はありがたいのですが…。」
「僕はあなたが欲しいんですよ、Aさん。」

脳内に警戒音が鳴り響いた。
違う、これは一度お招きするなんてそんな誘いではない。
微笑みの中に有無を言わせない圧力を感じる。
初めは爽やかに見えた彼の笑顔も、今はその裏に隠された真意に恐怖しか感じない。
震えそうになる体を、膝の上で拳を握りしめて抑えた。

「申し訳ございませんが、私はここを離れるつもりはありませんので…。お誘いのお言葉は大変恐縮でございます。」
「そうですか、残念ですね。」
「本当に申し訳ございません。」
「なら森が無くなり、この町が無くなったら?そうしたらあなたは僕の国に来ますか?」

僕って結構強引なんですよねと笑う王子を、私は信じられないという目で見ているだろう。
グルッペン、あなたは正しかった。
アスタムの支配の仕方は間違っている。
こんなやり方で支配したところで誰も幸せになんかなれない。

「どうしますかAさん。お友達の狼さんも、仲良しのおばさま方もAさんのお返事次第で住む場所がなくなっちゃいますよ。」
「な、んでそれを…。」
「やだなぁ、僕は皇太子ですよ?僕の口にあなたのお菓子が入る前に、あなたの事が調べられるに決まってるじゃないですか!」

本当に可笑しそうにケラケラと笑う王子。
怒りで握った手のひらに爪が食い込む。

ごめんね、グルッペン。
あなたがアスタムを滅ぼすのを待ってる。

「アスタムに参ります。森や町には手を出さないで。」

立ち上がった私に王子は満足そうに微笑んだ。

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なな - うん。 いや最推しにこんなんされたらもう本当ヤバいなぁ…((語彙力ッ いやグルちゃんかっこええ~… (2019年9月7日 18時) (レス) id: 49b689c972 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメ* - グルさんイケメン…最推しです(*´ー`*) (2017年9月10日 9時) (レス) id: ab38d97291 (このIDを非表示/違反報告)
ひとちん(プロフ) - 75さん» 75さんコメントありがとうございます!楽しんで貰えたなら幸いです!!続編も次回作も早くお届けできますよう頑張ります!これからもよろしくお願いします!! (2017年8月22日 12時) (レス) id: 30a8058165 (このIDを非表示/違反報告)
75(プロフ) - ひとちん様初めまして。いつも楽しみに読ませて頂いております。この度は完結おめでとうございます!秀逸な作品構成にどきどきしながらページを送っておりました。続編、次回作共に首を長くしてお待ちしてます!体調にはお気をつけてお過ごしくださいませ。 (2017年8月22日 12時) (レス) id: 97ace52c10 (このIDを非表示/違反報告)
ひとちん(プロフ) - 水鈴さん» 水鈴さんコメントありがとうございます!感想とても嬉しいです!!2では二人のその後などを書かせて頂く予定ですので完成したらぜひそちらもご覧になってくれると嬉しいです!これからもよろしくお願いします!! (2017年8月21日 22時) (レス) id: 30a8058165 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひとちん | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2017年7月23日 23時

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