2986.【翔にぃのパニック障害】 ページ36
［翔にぃside］
救急車のサイレン。
聴こえてきた途端に胸がギュッと苦しくなって…
激しい目眩がして…
先「…っ、翔くん！」
「…っ、ん、はぁ…はぁ…」
立っていられなくなる…
このまま死んじゃうんじゃないかって、不安に
襲われるくらい息が苦しい。
先「大丈夫…少し休憩しよう」
「…っ、はぁ…はぁ…っ…」
先「大丈夫…大丈夫だから…ゆっくり…」
先輩に背中をさすってもらいながら、気持ちが
落ち着くのを待つ。
バクバク音を立てていた心臓も、苦しかった呼吸も
少しずつラクになってきた…
「…みません、でした…もう、大丈夫です…」
先「ん、よかった。…ちょっと話さないか？」
「…はい」
心配を掛けておきながら「話したくないです」とは
言えなくて…
それに昨日も同じ状況。…動悸と目眩と息苦しさで
先輩に助けてもらった。
なにより、自分で抱え込んでいたら潰れてしまい
そうな気がするから…
「…すみません」
先「救急車のサイレンが原因か？」
「…はい」
認めたくない。
認めたくないけど…
「…パニック発作…ですよね…」
先「ん、恐らくそうだろうね」
「…」
原因ははっきりしてるんだ。
3日前の当直の時に運ばれてきた患者さん。
高校の制服を着ていて、鞄の中には参考書が沢山
入っていた。
23時頃…
恐らく、予備校か何かの帰りだろう。
自転車と車との接触だった。
外傷が酷くて、運ばれてきた時にはすでに意識が
なくて。
処置をしているうちに頭部の内出血も確認できて
この病院で出来る限りの処置をして、当直で脳外科の
医師がいる病院に救急搬送で引き継いだ。
そんな患者さん。
双子の姿に重なったんだ…
搬送されてきたときからずっと…
もし和や潤が同じ状況になったら…って、考えたら
恐くて仕方がなかった。
それを引きずってる…
先「少し療養した方がいい」
「…でも」
先「無理して引きずると長引く。翔くんなら
分かるだろ？」
「…こんなことで、情けなく、て…」
先「そんな風に思うやつはこの病院にはいないよ。
みんな同じ。同じような経験しながら、休んで
乗り越えていくんだよ」
いっぱいいっぱいだった心に、先輩の優しい気持ちが
スーッと入ってくる。
先「な？大丈夫。翔くんだけが特別じゃない」
「…はい」
俺はその日のうちに心療内科で診断書をもらって、
病院に提出した。
申し訳ない気持ちもあったけど…
救急車のサイレンから、離れられることに
安堵している自分もいた。
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作者名：空
| 作成日時：2018年9月6日 18時
