5人で生きてゆく…part54 (ページ44)

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［翔にぃside］

恐怖症を患った人の
気持ちは、分かっているつもりだったのに…

ほんとに、つもりだったんだろう。

患「あ、翔先生…すみません、ご迷惑を…」

「…さ、ん。申し訳、ありませんでした…」

声が震えて名前が呼べない。

連絡がきたのは昼過ぎだったんだ。

『翔先生の外来担当の患者さんが、胃カメラの
検査中にパニックを起こしたので、検査方法を
急遽変更しました』って。

患「…やっぱり、駄目でした…」

「…そんなこと、ない…」

ガンを克服しただけですごいことなんだ。

そんな風に肩を落として悲しそうな顔、させたくは
なかった…

「俺の判断ミスです…」っていくら頭を下げても
「いえいえ。私の心が弱いから。せっかく翔先生が
挑戦する機会をくれたのに」って。

違う…違うんだ。

本当は鎮静かけて検査した方がいいと思ってた。

再発の可能性もあるから、患者自身は気を張るし
不安もある。

だからこそ、いつも以上に安心できる環境で
検査をさせるべきだったのに…

俺は上司の言いなりになって、患者さんを犠牲に
した。

俺を信頼してくれる気持ちを利用したんだ…

「ゆっくり、休んで下さい、ね…」

涙が零れそうになって、慌てて病室を出た。

［智にぃside］

翔「ただいま…」

「おかえり。遅くまでお疲れさま」

翔「…ん」

23時過ぎに帰宅した翔は明らかに元気がなく、
そのまま風呂場に直行していった。

少し前の夕食の時間「新しい上司と上手く
いかなくてさ…」ってボヤいていたから、
翔が悩んでいることはみんな知ってる。

そのことかな…

和潤「寝るね。…お願いね？」

雅「俺も部屋いっとくから。お願いします」

「ん、明日報告できるようにするね」

お兄ちゃん思いの優しい弟たちに「おやすみ」って
伝えて送り出して。

俺はキッチンで夕食の準備。

軽くなら食べてくれるかなと思って。

「なんかあった…？」

翔「…ん、俺…最低なことした…」

翔はご飯を食べながら、ポツポツと最近のこと
それから今日の出来事を話してくれた。

翔「上司と上手くいかないだけなら、まだ
よかったんだ…、俺の問題だから」

「…ん」

翔「大事な患者さん巻き込んで…傷付けて、
ほんと最低…」

後半はポロポロ泣き出しちゃって、ソファーに
移動してからも自分を責めて泣いている。

肩を抱いて慰めることくらいしか出来ないけど…

「翔は翔のままでいいよ」って思いだけは
ちゃんと伝えたいなと思った。