2601.【落ち込む次男】 ページ1
［翔にぃside］
「そうですか…」
発した言葉が虚しく返ってくる…
「失礼しました…」
提出していた論文について、話があった。
和の病気の治療法に役立つと思って、渾身の
力を込めてまとめた論文。
それが無意味であったと告げられた…
少しでも力になりたいって思って、一生懸命に
調べたけれど、すべて無駄だった。
やっぱり、俺が和にしてやれることはないのか。
医者になったって、指示された治療をただただ
和にしているだけ。
そんなの俺じゃなくたってできること…
なんだろう…この喪失感。
数日後、先輩に「翔くん、聞いたよ」って声を
掛けられたけど、何て応えたかも覚えていない。
役立たず…
存在価値なし…
自分を否定することしか出来なくて、どこにいても
自分の居場所がない気がする。
何度も夢を見るんだ…
『翔にぃ…助けて、よ…』
『俺、死ぬんだよね…』
和は目の前にいて泣いているのに、手を伸ばしても
届かない。
『助かるよ』って言いたいのに、声が出ない。
「…っ、んっ！はぁ…」
こうして毎晩のように魘されて飛び起きる。
何も…何も出来ない俺は、和の傍にいる意味が
あるんだろうか。
智「翔…？最近、疲れてない？」
「…」
智「…眠れてる？」
「ん、ちょっと…仕事、忙しくて…」
智にぃは、もちろん俺の異変に気が付いて
早々に声を掛けてくれたけど…
「大丈夫だから。心配掛けたなら、ごめん」
こんな役立たずの俺の心配なんか、
してくれなくていい。
心配される価値もない人間なんだから…
そんな風に思っていたら、医者であることに
ストレスを感じるようになった。
ベッドから起き上がる気力さえもない。
１日休んで、罪悪感に押し潰されて…翌日は出勤。
でもまた次の日は休んでしまって…
自分がさらに不必要な人間に思えてくる。
このまま消えていなくなりたい。
和「翔にぃ？大丈夫？」
潤「智にぃが、夕飯できたって呼んでる」
「ん、分かった」
双子はいっぱい心配してくれて、こうして部屋に
顔を出してくれる。
俺が素っ気ない返事しか返さなくても
笑顔でいてくれる。
俺が双子や雅紀に、全てを話せないこと
ちゃんと受け止めてくれてる。
俺…ほんと駄目な奴。
周りのみんなが優しければ優しい程、自分の
未熟さと力の無さを感じてしまう…
智「翔…？休む？」
「…ん」
智「そっか。電話はした？」
「…ん」
とうとう３日連続の欠勤。
どうでもいい…
もう、どうでも…
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作者名：空
| 作成日時：2017年7月13日 21時
