▽第五話▲ ページ5
彼女は後ろにいる俺に気づくことなく、屋上の扉を開けようとした。
「待って!!!」
『…ッ!?』
咄嗟に掴んだ腕に驚いたのか彼女は弾かれたようにこちらを振り返る。
「えと、雨降ってるかもしれないよ…??」
『ううん。止んでるよ』
彼女は悲しそうに微笑んで俺に言った。
「でも、いま梅雨…でしょ??今日も朝から雨降ってたし」
『えと、平井くん…だっけ。雨、止んでるよ。ほら』
彼女はドアをあけて俺に笑ってみせた。
「俺の、名前…」
知ってたんだ。
その言葉は音にはならなかったけど、確かに彼女には届いたようで。
『知ってるよ。優くんがたくさん話してくれるの。幼馴染みなんだよね。平井くんと、こーすけくんと清川くんと…ユキちゃん』
ユキの名前を苦しげに吐く涼宮さん。
涼宮さんは俺の手をするりと解くと屋上の真ん中へと向かった。
『わかってるの。わかってるんだよ。ユキちゃんは優くんの幼馴染み。私は、優くんの彼女。それでも不安になっちゃうのっ!!優くんが、大好きだから…ッ!!』
目に涙をいっぱいに溜めて彼女は叫んだ。
『私ね。よく周りに言われるの』
次に彼女が苦しげに呟いた言葉は、俺の中での何かを壊した。
『ユキちゃんとAって、そっくりだよね。双子みたいって…』
だから、優くんは私をユキちゃんの代わりにしたのかもね。
自嘲気味に笑う涼宮さん。
俺は思わずそんな彼女を抱きしめた。
『平井…くん??』
「カズト」
『え…??』
「俺の、下の名前。呼んでくれない??」
彼女は抗うことなく小さく息をついてから
『カズトくん。ありがとう…ッ』
小さく俺の名前を呼んだ。
そっと、体を離すと、彼女の目からはポロポロと涙がこぼれた。
「Aちゃん…って呼んでも、良い??」
俺がそっと聞くとAちゃんは目を見開いてからなにそれ。と笑った。
『いいよ。これから仲良くしようね。カズトくん』
涙の溜まった笑顔は、今の雨上がりの空のようで。
「俺が、その涙拭ってもいいですか??」
彼女はまた、カズトくんどうしたの。と笑った。
『涙くらい、自分で拭えるよ?』
「…そうだけど」
俺は彼女の目尻にくちびるを寄せ、そっと涙を吸った。
『カズトくん!?』
顔を真っ赤にして慌てる彼女が可愛くて、愛おしくて。
友達の、幼馴染みの彼女だなんて忘れてた。
それぐらい、キミに溺れてたんだ。
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魎芭@真紅の稲妻(プロフ) - ヒラかわかっこいい! 更新楽しみにしてます!これからも頑張って下さい! (2015年8月7日 7時) (レス) id: 95f31c8c92 (このIDを非表示/違反報告)
メアリー - ヒラかわゆす…(//-//) (2015年8月2日 19時) (レス) id: 247ae801c7 (このIDを非表示/違反報告)
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