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陸捨節 『取引』 ページ35

「なっ……な……」





上手く声を発せられなかった。口の中の水分は消え失せ、背中を冷たい汗が伝う。

後で考えれば、この時しらばっくれていればよかったと思う。「知らない」を突き通せていれば、「人違いでは」と突き放せていればよかった。だが、今のヤムライハにそんな余裕はない。
歯を食いしばって、倒れないようにすることが精一杯だった。





「化けた妖を見破ることを得意とする陰陽師もいるんだよ、知っていたかい?」


「…………」





ヤムライハが無言なのをいいことに、男は畳み掛ける。





「君の術なんてお見通しだ。このまま彰霊様の御前(ごぜん)に君を突き出すこともできる。でもそれじゃぁつまらないと思わないか?君は……美人だ。こんな美人をやすやす彰霊様に渡すほど、俺も欲のない人間じゃない」





美人とは褒め言葉のはずなのに、鳥肌が立つ。
押し寄せる悪寒に、ヤムライハは身震いした。





「一度、若い女とふたりっきりになってみたかったんだ……」





男がぼそりと漏らした声は、耳にこびりつくような気持ち悪い甘ったるさを持っていた。





「そうだ、取引をしよう。君が俺と、今晩『二人っきりで』談話してくれたら、ほんの少し彰霊についての情報をプレゼントしよう。居場所、性格、得意とする妖術、この3つでどうだろう。君達にとっては喉から手が出るほど欲しいものじゃないか?

ちなみに君がこの取引を断った場合、俺はすぐさま君を捕らえて彰霊様に突き出す。もし君がこの場では逃げ切ることができたとしても、俺は彰霊様に君のことを話して、街や妖狐の警備を一層強化してもらうからな。

さあ、どうする?」





目を細め、口を三日月のようににんまり曲げた男は、腰を屈めてヤムライハを覗きこんで小首をかしげた。気持ち悪い、吐き気がする。でも……



(断れば捕らえられる、ジャーファルさんに迷惑がかかる。了承すれば、私は一晩この気持ち悪い男と一緒?嫌だ!それにあいつが本当に約束を守るとは限らない。もしかしたら私を閉じ込めようとするかもしれない……)





「どうする?」





男に促されたヤムライハはゆっくりと口を開いた。
本当は、答えなんてとっくに決めていた。



「その取引……うけます」

陸捨壱節 『騙す』→←伍捨玖節 『男』



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表ヒナタ(プロフ) - ブラッキー×リーフィアさん» 別アカですみません、裏ヒナタです。コメントありがとうございました!面白いと言っていただけてなによりです(´∀`*)続き頑張って更新し続けますので、ゆったりお待ちください! (2014年10月30日 20時) (レス) id: f759972714 (このIDを非表示/違反報告)
ブラッキー×リーフィア - おもしろい!!(>∀<)/続きが気になります!! (2014年10月28日 19時) (レス) id: d1bbfb5376 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:裏ヒナタ x他1人 | 作者ホームページ:ホムペなんてないのだよ  
作成日時:2014年10月27日 15時

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