第十七話 流せない涙の代わりに ページ32
「その大荷物はどうした？今は左之と巡察に行っているのではなかったのか？」
怒涛の質問攻めに私は苦笑を漏らした。もう、この人は最後まで……
とても隠しきれるものではなかった為、私は素直に話すことにした。
「ここでのお手伝いをやめさせていただくことになりました。」
斎藤が目を見開く。
ああ、そんな顔をしないでほしい。必死に抑えつけている思いが溢れそうになるから。
「そう、か…やめてしまうのだな。」
斎藤は止めない、と言うのは予想通りだった。きっと彼は私の意思を優先してくれる。けれど、そこから先の言葉は＿＿＿＿
「お前の生きる意味は、見つかったか？」
＿＿＿＿予想していなかった。
斎藤に初めてあった晩、私は彼の真っ直ぐな瞳に負けて、自分の生い立ちの一部と、常に思い続けてきた悩みを打ち明けた。
土方と言い、斎藤と言い、どうしてそれを事細かに覚えているのだろうか。
私のことなんて、どうでもいいと思っていればいいのに。
『生きていた証拠も、存在した証拠もない。そんな人間が、生き続ける必要がありますか？』
確かそんなことを口走った気がする。存在する意味を見つけるどころか、この新選組での生活は楽しすぎて、考える暇すらなかった。
けれど、心の奥で思うのは。
この新選組が私の生きる意味になれば、どれだけいいだろうかと。そんなありえない願望ばかり。
私は弱々しい苦笑を浮かべて見せた。
「どう、でしょうね。まだわかりません。」
「そうなのか？」
「けど、いずれ見つかる筈がします。」
この時、私は初めて斎藤に嘘をついた。
見つかる筈がない。私には、それを見つける時間など、残されていないのだから。
けれど、斎藤は「そうか。ならいい。」なんて言って優しく笑う。
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作者名：雛菊 | 作成日時：2015年10月12日 23時
