第三話 始末屋たるや ページ4
「始末屋、ねぇ……」
私の眼の前で腕を組み、鋭い視線を向けてくるこの男。新選組副長、土方歳三だ。私でも、その名前は知っていた。
私は新選組の屯所に連れてこられた。
勿論刀は取り上げられ、腕を縛られることこそされないが、周りは新選組の幹部だという屈強な男たちに囲まれている。居心地が悪いことこの上ない。
「証拠はあんのか?」
「証拠、ですか。」
私は着物の懐に手を入れた。小さな封筒を一通取り出す。
「あまり軽々しく見せていいものではないのですが。そこは理解ある新選組副長様ということで。」
しっかりと念を押しながらその封筒を開いて渡す。「幕府からの依頼書です。」
土方は目を通すと、それを隣の男に渡した。新選組局長、近藤勇だ。
「どうやら本物らしいぜ、近藤さん。」
「ふむ、確かにこの判は幕府の……」
参った、という風にはぁ、と息を吐き、土方は斎藤に目を向ける。
「こいつがあいつらを殺したんだろ?」
「はい」と頷いた斎藤の横で、沖田が感嘆の声を上げた。「それはもう、見事だったよ。」
「あ、そう言えばさ、どうして心臓を狙ったの?もしかして傷が治るなんてこと、知ってたわけじゃないよねぇ?」
「一度斬りつけて、その傷が塞がってしまった時には流石に驚きました。ただの人間ではないということは見た目でわかりましたが、まさか傷が治るなんてことは思いもよりませんでしたから。」
「だろうね」沖田はフッと笑う。
「そこで思いついた方法が、首を落とすことと、心臓を貫くことです。不死身かもしれないということも考えましたが、どちらにしても、あの間合いでは逃げることもできない。実行したのは後者の方法です。」
「その状況でその手段を思いつくなんて、やっぱすげぇんだな、お前。」
原田というらしい男は、感心するように言った。
「それで、私はこれからどうすればいいんでしょうか。あの化け物のことについては敢えてなにも聞きませんが……それで逃がしてくれますか?」
土方は腕を組んで暫く考えると、口を開いた。
「幕府の始末屋となれば口も固ェんだろうが、そう簡単に信じるわけにもいかねぇ。あいつらのことは、絶対に外に漏らせねぇからな。」
その通りだ、と思った。通りすがりの、偶々化け物退治をしただけの女を信じるなんて、無理な話だ。
私は静かに問うた。
「私を殺しますか?」
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作者名:雛菊 | 作成日時:2015年10月12日 23時