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斎藤がこちらに向かって歩いてくる。
「大丈夫か、織笠。」
「はい。ご苦労様でした。」
そう言ってから、ふと考える。そういえば斎藤は私のことを“織笠”と呼んでいた。しかし、先ほどは____
「斎藤さん、もしかして今、名前を呼んでくださいましたか?」
「っ…」
斎藤の肩がびくりと揺れる。暴露てしまった、そんな顔をしながらこちらを恐る恐る見つめる。
「あ、あれは、咄嗟のことで…悪かった、馴れ馴れしく……」
「いやいや、責めてるわけじゃないんですよ。むしろ嬉しかったです。」
「そ、そうなのか?」
「はい。これからも呼んでください。」
「それでは…遠慮なく。」
斎藤はごほん、と咳払いをすると、私を真っ直ぐに見つめ、「A。」と呼んだ。
____あ、今呼ぶんだ。
なんだか面と向かってそんな真剣な顔で呼ばれると、物凄く気恥ずかしい感じがする。
それは私だけではないようで、斎藤はふいと顔をそらしてしまった。その耳がほんのり赤い。
「そ、そろそろ行きますか。」
「あ、ああ。」
組員に男たちを担いでもらって、私たちはまたぎこちなく歩き始めた。
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作者名:雛菊 | 作成日時:2015年10月12日 23時