短編小説 /賞賛の言葉なんて、何一つかけてくれなかった癖に/ ページ24
――――『指先にキス』
――彼に認めてもらいたくて。
「先輩、どうですか?」
毎日毎日、頑張っているのに。
「……全然駄目。それで良いと思ったのか?」
―――彼が彼女に吐きだす言葉は、いつも冷たいものばかり。
「アーティキュレーションをはっきり。後ここでブレスを取らない方がいい」
彼女の譜面を覗き込みながら次々に指摘していく彼の腕の中には、バスクラリネットが抱えられていた。
彼女は自分のクラリネットを落としてしまわないよう気を付けながら、今言われたことを全て譜面へと書きこんでいく。
最初は素直に話を聞き、全て直そうと必死になって頑張っていた彼女だったが―――
「おい、聞いているのか?」
上から目線、偉そうに、優しさの欠片もない言い方で注意されればやる気も失せるというものだ。
「聞いてますよ!!」
――――頑張ってるんだよ。私も、私なりにやってるの!
先輩だからそんなことは言えない。先輩だから、上から目線なのも偉そうなのも当たり前なのだ。
「分かったら早く練習しろ。ぼうっとしている暇はないぞ」
そう言って銀縁の眼鏡をくいっと上げながら、睨みつけるように彼女を見る。その瞳は冷めきっていて、初対面のときはそれはそれは怖かったものだ。しかし今なら、ただ目つきが悪いだけで睨んでいるわけではない(多分)と分かる。
「……はい」
それでもこうやって頑張ってしまうのは、その冷たい瞳に恋をしたからなのかもしれない。
もっと違う顔が見てみたい。無表情じゃなく、笑った顔、照れた顔、色々な顔が見てみたい―――
「私ッ――私だって、頑張ってるんです!!」
それは翌日のことだった。毎日のように繰り返される冷たい言葉の数々に、彼女もついに耐えきれなくなった。
「いつもいつも!先輩に認めてもらえるように!頑張ってるんですよ!」
涙を流しながら叫ぶ彼女に、彼は少し驚いた表情をする。
「あ――…それは、すまなかった」
意外な言葉に彼女は顔を上げる。
「お前ならもっともっと上手くなると思って、つい言い過ぎた」
彼はそっと、壊れ物でも扱うように彼女の手を取り、その指先にそっと口付けた。
「俺はもうとっくに、お前のことを認めてるよ…良くここまで、曲を仕上げてくれたな」
その少し恥ずかしそうな表情に、彼女はまた、恋をしてしまったのだった。
――――『賞賛・貴方を愛しています』
短編小説 /雨降って地固まる/→←短編小説 /貴方は私の欲望の儘に/
- 金 運: ★☆☆☆☆
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- 全体運: ★★★☆☆
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容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました!!鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです!こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています!頑張ってくださいね!! (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - とりあえず完結しました〜!皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします! (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年8月31日 18時