短編小説 /ただ、ちょっと不安になっただけ/ ページ20
――――『背中にキス』
「ねえ、わたしのこと、すき……?」
赤く染まった頬。虚ろな瞳。少し乱れた髪。呂律も回りにくくなっているのか、彼女はたどたどしくそう尋ねる。
「何で?」
「ふあんに、なった……」
額には冷えピタ、枕元には風邪薬、右手には”37.8”と示された体温計を握っている。
「病人は大人しく寝てなさい」
彼はそう言うと、起きあがった彼女を無理やりベッドへ寝かしつける。
「ほら、そうやってはぎゅらかす……」
彼女は不服そうに布団を被ると、じっとりとした瞳で彼を見つめる。
「はいはい、好きだよ」
むっすりと頬を膨らませてみた彼女だったが、せき込んでしまいゲホゲホと苦しそうに口元を抑える。
「大丈夫?何か食べたいものとかある?」
「……お粥…」
カタカタ、鍋の蓋が揺れる。
真っ白なお粥をおたまで茶碗にすくい、温かいお茶と一緒にお盆にのせて持っていく。
彼女は決して虚弱体質という訳ではないのだが、最近流行りのウイルスにやられてしまったようだ。社内で風邪が流行っているとこの前言っていた気がする。
部屋のドアをノックし、入るよ、と声を掛ける。
風邪で寝込む彼女を介抱するのは別段嫌ではない。
彼はもともと世話好きな性格のため、寧ろ頼ってもらえることは嬉しいくらいだ。
ただ、問題はそこではないのである。
「おそい……もうどうせわたしのことなんてきらいになったんでしょ……」
「……お粥、作ってたんだけど…?」
「ほかのおんなのところであそんできたの?」
「いやだからお粥」
そう、問題は、彼女が熱を出すと非常に面倒くさくなるということ。
そして厄介なことに、彼女にはその記憶がないということ。
「ほら、お粥、食べれる?」
彼はスプーンに少しだけお粥を掬うと、彼女の口の前に持っていく。
「うー…ん…」
あちっ
口に入れた彼女はそう呟くと、はふはふと口の中で冷ましながら飲みこむ。
「ねえ、うしろむいて」
「?」
訳も分からず言われたままに後ろを向いた彼の服をべろんと捲り、彼女はその背中にキスをする。
「へへ、かぜがうつっちゃうね」
その意味を知っていたのか否か、彼女はヘラリと笑うとまた眠りについた。
彼の愛情を確かめようとしたその愛らしい行動に、頬を緩ませながら彼は独り言のように呟く。
「……背中から風邪はうつらねえよ…」
――――『確認』
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました!!鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです!こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています!頑張ってくださいね!! (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - とりあえず完結しました〜!皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします! (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年8月31日 18時