短編小説 /貴方が私を見ていなくとも/ ページ22
――――『腕にキス』
―――恋慕。
ふと気になりその言葉を辞書で調べたのがきっかけだった。
『特定の異性を想い慕うこと』
「特定の、異性を……」
その一文を何度も読み返し、彼女はぼんやりとため息をついた。
瞼の裏に浮かぶのは、幼馴染の彼のこと。
サッカーが大好きで、いつも楽しそうに笑っていて、男女関係なく好かれている彼。
「恋慕……」
私は、彼のことが好きなのかな?
いつも傍にいるのが当たり前で、姉弟の様な関係だった。
昔は彼女の方が大人っぽく、彼の面倒を見る役目だった。
しかし、大人になるにつれて、彼女と彼の隙間は広がっていった。
もともとあまり目立った性格でない彼女は、教室の隅でいつも本を読んでいた。彼は、クラスのムードメーカーとして仲間と仲良くやっている。
自分なんて、眼中にも入っていないのだと。気付くまでに時間はかからなかった。
「なあ、彼奴、好きな人がいるって知ってた?」
聞きたくなくても聞こえてしまった会話だった。
年頃の男の子だ。好きな人の一人や二人いたって可笑しくはない、と思う。
ただ、これほど、胸が痛むのは。
その相手が、彼女自身でないということ。
聞いた訳じゃない。けど、分かる。
貶されてもいい。罵られてもいい。
『彼がアンタのこと好きだとでも思ったの?』
馬鹿にしたように嘲笑われても構わない。
この想いを伝えることだけ、許してはもらえないだろうか。
ふと外を見ると、はらはらと雪が降り始めていた。
マフラーをひっつかむと、雪の降る外へと駆けだした。
どうか、どうか、彼が想う人に気持ちを伝えてしまう前に。
一言だけでも、この想いを。
あがる息、数メートル先に、ポケットに手を突っ込み縮こまりながら歩く彼の姿があった。
「待って!」
叫ぶと、驚いた表情の彼。
「あのね!」
彼女の顔が真っ赤なのは、寒さでなのか、否か。
「ずっと、好きだった」
大きく見開かれた彼の瞳に彼女の姿が映る。
「貴方が私に興味がないことは知ってた。……でもね、どうしても伝えたかっただけ。それだけ」
それじゃあ、またね。そう言って踵を返したら、今度は彼に「待って」と腕を掴まれた。
そして、その細く華奢な腕に、そっと口づけを――――
「この意味、分かる?」
上目遣いでそう尋ねられ、彼女はますます赤くなるしかなかった。
――――『恋慕』
短編小説 /貴方は私の欲望の儘に/→←短編小説 /コイツは俺の/
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容姿端麗に生まれ変わり隊(プロフ) - 『頬』と『額』は親しみ感が溢れてていいと思いました(o^−^o) (2019年4月29日 13時) (レス) id: 26de7c6d79 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - ちなみに頬へのキスは海外だと挨拶に近いですね。私も海外に住んでいるので親しい人とは頬にキスします。 (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
沖蘭 - 月が綺麗ですねから来ました!!鼻梁は鼻筋の事ですよ。面白かったです!こんなことをしてくれる彼氏が欲しいです。続編も楽しみにしています!頑張ってくださいね!! (2017年2月26日 6時) (レス) id: 63d7861522 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - とりあえず完結しました〜!皆さま本当にお付き合いありがとうございました<(_ _)>近々続編を作るつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします! (2017年2月11日 23時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
零ーレイー(プロフ) - のわあああ、意味が意味なのでヤンデレ続きになって申し訳ないです……全然純愛じゃない…キスの格言に相応しくない…… (2017年1月31日 20時) (レス) id: 79ca697b23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:零ーレイー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/hina99121/
作成日時:2016年8月31日 18時