万事屋の坂田くんは狼少年を愛しすぎている(参)

１１２ 谷 ページ25

神「新八」



静かに神楽ちゃんが僕の名前を呼ぶ




はっきり言って僕は茨さんのことは嘘をついて神楽ちゃんを殺そうとした、Aさんをさらった、刺した、たくさん人を殺した、といった最悪の印象しかない




まあ、最初は泣いてたし、仇討ちなんて信念の強い子だな、と一瞬思ったりもしたけれど





そう思って、弓を構える彼女を睨むと、彼女の出す強い殺意とは裏腹に手は少しだけだが、細かく震え、温度のない眼差しには戸惑いと悲しみが濁っているように見えた




神「何をそんなに怖がってるアルか」




真っ直ぐ茨さんを見つめる神楽ちゃんに、しぼりだしてようやく



茨「…うるさい、」



と一言短く茨さんが言う




自分は相手に殺意を向けているのに、それに怯むことなく真っ直ぐ強い思いをぶつけてくる人ともしかしたらあったことがないのかもしれない



神「打つなら早く打てヨ」

茨「…打つわよ」




ぎっ、と強く弓を引く





しかしそのまま動けないでいた





この人、本当に人を殺すことを望んでやっているのか？




思えば、最初の矢も


からの矢入れには毒矢じゃない矢が入っていて、からの矢入れに僕に討った普通の矢を入れてたとしたら



だって、矢入れには6本以上矢は入るのに、分けてること自体がおかしいじゃないか



偶然混ざっていた訳じゃなくて、わざと分けていて、それを僕らを“帰らせる”ために、脅しとして射っていたとしたら…？




神楽ちゃんを狙った矢


しっかり頭があったであろう位置を捉えている


矢の扱いは上手いはずだ


しかし、最初に僕を外したのは…






ふっ、と木刀を構える姿勢を弛めた





茨「なんでっ、
お前らはアタシに殺されるのよ！？
もっと人に殺される目をしろよッ！
怖がって逃げてよ！！」


神「お前なんか怖くないアル」


茨「っ、バカにしやがって…！！」





一歩茨さんの方へ近付いた神楽ちゃんの足元に弓が刺さる





茨「殺す！！殺して…
お前らを殺して叶様の所へ早く戻らないと…！！」




新「殺すの、嫌なんじゃないですか？」



茨「嫌なわけないっ！！
叶様が喜んでくれるから！」


新「手震えてますよ」




茨「煩い！！！」





また放たれた矢が僕の身体からギリギリ逸れて壁に刺さった

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