花盗人に罪はない《4》 ページ25
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「ほら、もう落ちついた？」
日和にすがりついたまま、数分微動だにしなかったAに彼は声をかける。と、彼女はのろのろと顔をあげた。
「……うわっ」
ーーその顔を見て、日和は声を上げる。Aは泣いていた。アーモンド型の瞳の縁には透明な涙の膜が張り、幾筋もの涙が頬を濡らしている。キラキラとした粒が頰に光っているのは、目元を彩っていたメイクのせいだろうか。声こそあげなかったとは言えど、目の周りと鼻の頭が真っ赤になっている様子を見る限りこれはかなり泣いたらしい。日和は数秒呆気にとられていたけれど、それから「もう」とシャツの袖で彼女の目元を拭った。
「A、今の顔とんでもなく不細工だね？後でちゃんと冷やした方がいいね、泣いてたことがバレちゃうからね」
君は泣いてる顔を他人に見られたくない人だもんね。ーーと、日和は揶揄するように言う。すると、普段は「うるさい」などと毒を飛ばしてくるAが、再び日和の胸に頭を預けた。顔を伏せる直前に見えた濡れた睫毛に、日和は一瞬息が止まったように思えた。
「……どうして」
少しの沈黙の後、ぽつりとAは口を開く。ーーそう思えば、彼女は半分擦り切れた悲痛な声で叫んだ。
「どうして！！」
びり、と鼓膜を震わせるような声に、日和は面食らうような心地だった。「ちょっ、A、声が大き……っ」すると一転、彼女はしおらしい声音に変わる。
「……わたしの方が……ずっと、ずっと好きなのに…………！！」
胸を締め付けられるような沈痛な声に、日和も思わず押し黙る。普段楽天家の日和にでさえ、不用意に慰めの言葉をかけるのは適当ではないと分かっていた。
「……っ、どうして、どうして……ッ！！」
自身の胸で、肩を震わせる少女。微かに聞こえる嗚咽に、日和はーー小さく微笑んだ。
ああ、本当に、可哀想で可愛いきみ。
ーーこの契約を、ぼくがどんな思いで取り付けたのかも知らないで。
自嘲気味な笑みを唇に乗せた日和は、彼女の嫋やかな黒髪をすくうとその一房に口付けた。が、それはすぐにさらりと手のひらから溢れ落ちる。言うまでもなく、彼女の心が永遠に自分のものにならないと暗示していた。髪の一房さえこの手から逃げ出すのだから、心まで奪えるわけがない。
この契約は、日和のついた極々ありふれた嘘だ。
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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい！ 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (
レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました！ (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください！ (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)
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