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トラジック・アイロニー《3》 ページ14

「……死は永遠の別れではありません。なのに、悲しんでしまえばもう二度と会えないと認めているようなものです」

それでも、彼女はそう口にする。ーーそれこそ、死に幻想を抱いているように思えるけれど。
先程彼女のことをリアリストだと称したけれど、どうにもそういうわけではなさそうだ。

彼女は、その質問に対してのみ少し瞳を揺らした。

そのことに彼女自身が気づいているかは別として、たしかに彼女は動揺していた。そう思えるぐらいに、彼女の言葉は自身を納得させるために無理やり吐いた言葉のような響きを持っていたのだ。


だけれど、僕はそれに気づかないふりをした。そして、唇に微かな笑みを乗せた。



「ーーそう。君は強いんだね」


じわりと、自身の心に黒い染みが広がったような思い。窓から差し込む白い光が、ひどくこの場に似つかわしくないものに思えて仕方がなかった。



2



他人への想いを愛憎の二種で表すならば、愛情よりも憎しみの方が強い感情だと言う。つまり、「愛される」より「憎まれる」方が相手の心に自身の存在を深く刻みつけ、その執着を奪うことが出来るのだ。

その理論を信じるならば、僕の計画は大成功を収めた。





「……ぜんぶ、貴方の仕業でしょう」


そこに、あの陽だまりを体現したかのような優しく物柔らかな白柳Aの姿はなかった。そこにいたのは、凄まじい激昂を身に纏う修羅だった。

彼女の形の良い唇が、怒りに震えている。ぎゅうっと結んだそれは、今にも血が出てしまいそうなほどに強く噛み締められていた。声音も表情も落ち着いているのに、圧倒されそうなオーラ。彼女の存在にこれほどまでに畏怖を覚えたのは、初めてかもしれない。

ぞわりと肌を撫でたその気配を払いおとすように、僕は腕を軽く撫でた。そして、極めて冷静に口を開いた。


「……それは、どういうことかな」

「貴方が、この人を殺したんでしょう」

彼女は縋り付いていた遺体から顔をあげ、そこで初めて僕を見た。涙に濡れながら、その瞳は決して暗く濁ってなどいない。何故なら、彼女は愛する人を亡くした代わりに、最も憎むべき相手を手に入れたのだから。

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零奈 - 初コメ失礼します。とても綺麗な文章だと思いました。そう書くと、途端に薄っぺらい感想になってしまうと思ったのですが、どうしても伝えたいと感想を書かせて頂きました。今後も更新頑張って下さい! 密かに応援させて頂きます。 (2019年8月5日 10時) (レス) id: ea99f94738 (このIDを非表示/違反報告)
雛菊(プロフ) - とくめいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言っていただけると創作意欲が湧きます。私もとくめいさんの作品を拝読させてもらっていて、ファンなのでコメントいただけてとても嬉しかったです。本当にありがとうございました! (2018年4月17日 19時) (レス) id: 1117a8b068 (このIDを非表示/違反報告)
とくめい(プロフ) - コメント失礼致します、どの作品も美しくも切ないものばかりで、とても深く心に響きました。中でも英智の話が印象深く残っております、今後も、何度か読みに来させてもらいます。陰ながら応援しております、体調にお気をつけて頑張ってください! (2018年4月16日 22時) (レス) id: c77f4429a1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛菊 | 作者ホームページ:http://ない  
作成日時:2018年4月8日 1時

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