白い譜面に音符を【歌い手】 (ページ1)

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･･･来て、しまった。
とうとう･･･。

A「(ひ、人すご･･･。
う、うう･･･私すごい場違いだよね･･･)」

現在地、さいたまハイパーアリーナ。通称たまハリ。

私は今日、人生初のライブに来ている。

ガヤガヤとたくさんの女の子達が物販列に並ぶ。
私はカバンの中からちょっと固めのファイルからチケットをそっと取り出した。

A「(ほ、本当にいいのかな･･･私なんかが、こんな･･･)」

〝浦島坂田船秋ツアーFINAL
さいたまハイパーアリーナ
座席番号Ａ３の１２〟

･･･会場の当日の座席表を調べてみたら、最前列のど真ん中だった。
スマホが壊れたのかと思って１０回くらい見返したり再起動を繰り返した。けど、チケットの整番も座席表の位置も変わらず。

A「(い、胃が痛い･･･！)」

チケットをまたクリアファイルに入れてカバンに入れて、取り敢えず物販列に並んだ。

みんなペンライトを複数所持してるし･･･私も買った方がいいよね。

ズラリと並ぶ物販ブースへと続く長蛇の列。
･･･開場は６時間くらい先なのに、行列が１００メートルをゆうに超えてる･･･気がする。

その最後尾に並んで、私は「ふぅ･･･」と静かに息をついた。

事の発端は、３ヶ月前に兄の黛(かおる)からきた連絡だった。
私は実家暮らし、双子の兄の黛は実家を離れて都会で働いている。

仲は悪くなく、むしろいい方。

『Aー！
ライブ行くぞライブ！！
連番じゃないのが気に食わないけど、チケット取れた！！』

A『え･･･？
ら、ライブって･･･アイドルとかがやる･･･？』

『そ！そのライブ！
連番じゃないの気に食わないけど、チケット取れたから準備しといて！』

A『じ、準備って･･･えぇ？』

『チケットは多分１ヶ月後くらいにそっちに届くから！
あ、交通費はAの口座に振り込んどくからね。当日また連絡するね！じゃ！』

一方的に切られた通話。
別にこれはいつもの事だ。
黛は何に対しても積極的だし、前向き。

･･･兄弟とか姉妹とか、よく一方がしっかりしてるともう一方はダメだとか揶揄(やゆ)される事がよくある。
私もそう思う。
だって、私と黛がそうだから。

黛は自信家で積極的。
私は内気で消極的。

･･･自分に、自信なんて持てるわけない。
だって、私は･･････。