300：本番に強いタイプ ▼ ページ4
Aは水面を見つめ、思い詰めた表情をしながら……内心では冷や汗をかきまくっていた。
動きと表情だけならなんとかやってこれたが、台詞を声に出してしまうと、どうしても素人感丸出しになってしまう。言い換えれば棒読みだ。
昨日の練習では「初めてにしては上出来」との評価をもらったが、所詮「初めてにしては」だ。周りが長い間稽古を重ねてきたプロばかりでは、やはり棒読み感が浮き彫りになる。
表情に出さないように心臓をばくばく言わせていると、静かな音楽が流れてきた。
そう、このシーンこそ青年が言っていた山場だ。
台詞で観客を現実に引き戻してしまったと感じたAは、歌でなんとか挽回しようと気合いを入れる。…ただし、表には出さずに。
この歌はサクラビスが苦しい胸の内を零した、静かな歌なのだ。張り切った様子を見せてはまずいだろう。
Aは音楽に合わせて、そっと歌い出した。
…自分が抱いているのは、過ぎた望み、叶わぬ願い、波打ち際に記した絵空事のように儚いもの。
何故ならあの人は、生まれた世界も、話す言葉も、何もかもが違う人だから。
そんなことはサクラビスだって分かっているだろう。それでも、僅かな時間だけでもいいから、側に居たいと望んだのだ。…この魔法が解けるまで。
Aが歌い終わると、舞台は暗闇に包まれた。先ほどまでと同じ場面転換の暗転なのだが、観客席は今までにない静寂に包まれていた。Aの歌に聴き入っていた誰もが、その歌声に心を打たれたからだ。今までの彼女の演技以上に、短い台詞のぎこちなさを忘れる程に。
それはサトシも同じだった。
今まで何度か彼女の歌を聞いたことはあったものの、ここまで胸をぎゅっと捕まれ泣き出しそうな衝動に駆られるのは初めてだった。彼女が本気で、ありったけの感情を込めるとこんな歌になるなんて。
いよいよ物語はクライマックスに入る。ヒカリに聞いた話だと、サクラビスの想いは届かず、彼女は海の泡となって消えてしまうことになる。
照明に照らされたステージは、城のバルコニーになっていた。楽しそうに笑う王子と、影のある笑顔を浮かべた少女。彼らが共に過ごせる最後の日だ。
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こうもり(プロフ) - 時間の止まったリスさん» ご感想ありがとうございます！DPはリメイクもされたのでおすすめです！パートナーとの冒険はすごく楽しいですよー！ (2022年4月30日 21時) (
レス) id: 9309100d6a (このIDを非表示/違反報告)
時間の止まったリス - これを機にポケモン始めようかな、なんて思いました(めちゃ時代遅れですね)。リスはピカチュウとポッチャマ時代で止まってますので。へへ (2022年4月26日 10時) (レス) id: d39a98933d (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - 緑茶さん» こちらこそコメントありがとうございます！DPいいですよね…！！長いお話を読んでくださっただけでなく感想までいただけてすごく嬉しいです、ありがとうございます！ (2020年7月31日 20時) (レス) id: a41badf38a (このIDを非表示/違反報告)
緑茶(プロフ) - たまたま見つけて気付いたら全て読んでいました。DP私も好きなのでとても面白かったです。自分の夢に向かって歩き出す彼らを見ていたら涙が止まりません。素晴らしい物語をありがとうございます！ (2020年7月31日 1時) (レス) id: ab02c22683 (このIDを非表示/違反報告)
こうもり(プロフ) - moekaさん» コメントありがとうございます！最後のページに一覧を載せておきました！ (2020年2月22日 6時) (レス) id: a41badf38a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こうもり | 作成日時：2017年1月1日 20時
